• 02/06/2022
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ケンウッドの最新“彩速ナビ”「MDV-M907HDF」で採用されたフローティング機構。その開発秘話を“ミスター彩速ナビ”渋谷氏、マーケティング担当南氏が明かす

フローティング機構採用の秘話

 据え置き型ナビのディスプレイは、近年では7V型を採用するのが一般的だった。これは日本車におけるAV機器取り付けスペースが永らく2DIN(180×100mm)だったことが大きく、そのサイズに収まる最大のディスプレイが7V型だったわけだ。ナビ本体とディスプレイが分離していた時代にはもう少しバリエーションがあったものの、「設置スペースや装着の手間、見栄えなどを考えるとやはりワンボディが最適」と多くのユーザーが選択してきた結果でもある。

 その風向きが変わってきたのはごく最近のこと。ナビゲーションを装着するための専用パネルを用意することで、より大型のディスプレイを装着可能にしたのだ。ただ、これには問題もあった。インパネのデザインは当然ながら車種ごとに千差万別。それを用意するのはよほど売れ筋のクルマ以外はコスト面で見合わないため、どうしても装着できる車種が限られてしまったのだ。こうした制約から脱却するために生まれてきたのがフローティング機構なのだ。

「2019年モデルに9V型ディスプレイを搭載したのがきっかけ」と渋谷氏

――まずはフローティング機構の採用に至った経緯を教えてください。

渋谷氏:この商品が生まれるきっかけになったのは、2019年に発売した9V型HDモデル(MDV-M906HDL)ですね。「HDでキレイでサクサク動く」と非常に好評だったのですが、「自分のクルマに付かない」「彩速ナビの大きな画面が欲しい」というご要望を販売店さんから数多くいただきました。「売りやすい」「売れるか」ではなくて「自分が欲しい」と。お客さまも少なからず同じ意見なのではということで、海外モデルを含めて「検討してみよう」と機運が高まったという流れです。

HDクオリティで描かれる地図は抜群の美しさ

――9V型ディスプレイを多くの車種に取り付け可能にするには、何らかの工夫が必要になってきます。

渋谷氏:実は2012年ごろ、次期モデルの先行開発をしていた時期にフローティングモデルの原型になるものを作っているんです。当時はインダッシュが主流で、高額な商品が多かった。キットレスで使えるフローティングも残念ながら高額な商品になってしまうため、断念した経緯があります。実際に販売するとなるとキットだけで3万円~4万円、ナビ本体は20万円以上、全部で30~40万円みたいな構成になってしまいました。

ケンウッドの最新“彩速ナビ”「MDV-M907HDF」で採用されたフローティング機構。その開発秘話を“ミスター彩速ナビ”渋谷氏、マーケティング担当南氏が明かす

――すでにフローティング機構を試していたと。でも、さすがにその金額では躊躇しますね。

渋谷氏:私は15万円以上(の商品)は作らないと常々言っています。自分も買えなくなってしまいますし(笑)。ちょっと頑張れば手が届くところにいないと皆さん楽しんでいただけないんじゃないかと。しかし、当時の構造ではそれ以上のお値段になってしまった。これは今出すべきものじゃないだろうということで手を降ろしました。

南氏:その時は8V型でした。私もその時に実機を見ていたので、「これは出たら売れるな」と楽しみにしていました。

7V型ディスプレイ(上)と9V型ディスプレイ(下)の比較。数字以上に9V型の方が大きく見える

――そんな経緯があったのですね。

渋谷氏:もう1つ理由があって、当時は「フローティング」「フリック&ピンチ」と、2つ大きなことをしようとしていました。これ(フリック&ピンチ)が本当に大変だったんですよ。夜も眠れない設計者もいたんじゃないかというぐらい大変だった。

――今やフリックやピンチイン/アウトでの操作は彩速ナビのウリにもなっています。

渋谷氏:「クルマでは絶対そんなことはありえない」「左手でそんなの操作できない」といった意見もありましたが、実現すれば「世の中、絶対動くぞ」という気持ちで進めました。それと重なってしまった。

――フリック&ピンチを優先したわけですね。

渋谷氏:その後は様子を見ていたのですが、9V型HDモデル発売後にこれ(フローティング)をなんとか装着したいという話を全国の販売店さんからいただいたという流れになります。