• 20/02/2023
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「地方工場」におけるデジタル化の現状と課題 ―Conference X in 広島レポート2

各産業・業界においてDXに先駆的に取り組む企業が登壇し、DXの実践事例を議論する「Conference X in 広島」(株式会社INDUSTRIAL-X主催)が2021年8月31日、オンラインで開催された。

本稿では、セッション2の地域工場(Smart Factory)に関するディスカッションを紹介する。同ディスカッションには、以下4社が参加した。

目次

デジタルで何と何をつなげるか

ディスカッションのはじめに、今野氏から「デジタルで何と何をつなげたいか」という質問を3社に行った。

人と人をつなぐ

質問に対し、ひびき精機の松本氏は、技術伝承が課題であるため、デジタルによって人と人、ベテランと若手をつなぎたいと回答した。

ひびき精機は、山口県に本社を持つ、金属の精密加工を行う企業である。西日本電信電話株式会社(以下、NTT西日本)と共同でローカル5Gに関する実証実験を行うなど、新たな取組を進めている。

生産拠点が複数あり、少ないベテラン作業者はその拠点間を移動しながら作業をするため、移動ロスが発生してしまうという。ひびき精機には若い社員が多いという特徴もあり、1人のベテラン作業者に対して、複数の若い社員が質問を行っている状況があるという。

松本氏は、すでに、スマートグラスを活用した技術伝承を進めているというが、今後更に人と人をデジタルによってつないでいきたいとした。

人と機械をつなぐ

カワトT.P.Cの桐田氏は、人と機械をつなげたいと述べた。

カワトT.P.Cは、山口県に本社を持つ、集合住宅の配管組み立てや金属機械加工を行う企業だ。デジタル化として、集合住宅の配管図面を自動で作図するシステムを導入したり、IoTを活用した工場の遠隔操作システムを導入したりしている。

機械加工では、機械を24時間稼働させて生産をする必要があるが、トラブルや予期せぬ装置の停止が起きるため、管理を行うために社員が毎日出社する必要があるという。しかし、こうした働き方は時代にあっていないと考え、遠隔操作システムを導入することを決めたとした。

すでに、遠隔から監視を行い、簡単な操作であれば遠隔から行うことができるようになっているそうだ。今後更に遠隔での操作を進めていきたいとしている。

企業と顧客をつなぐ

ビーライズの波田間氏は、デジタルによって企業と顧客がつながってほしいと回答した。ビーライズは、広島に本社を持つ、XRシステムを開発している企業だ。ひびき精機やカワトT.P.Cとは立場が異なり、デジタル技術を顧客に提供するという立ち位置で同ディスカッションに参加している。

XRが普及することで、様々な体験が手軽にできるようになるとされている。例えば、バーチャル旅行や遠くに住む人とのバーチャル上での打ち合わせなどができるようになるだろう。

旅行の場合、現地の空気や匂いなど、実際に現地に行くことで得られるものが多いかもしれないが、工場での商談や製品の説明などはバーチャル空間上で実施されても違和感が少ないのではないかという。

商談やプレゼンをバーチャル上で行うことができるようになると、出張が減ったり、顧客の獲得が早くなったりすると考えられる。展示会もバーチャル化されると考えられていて、競合他社と差別化するためには、カタログがPDFでダウンロードできるだけでは物足りなくなるだろう。工場の3Dモデル化などが必要にはなるが、デジタル化による効果は大きい。

更に、MRを使用することで、製品納品後のメンテナンスやトラブル対応もすぐにできるようになるとした。

「地方工場」におけるデジタル化の現状と課題 ―Conference X in 広島レポート2

人材という課題にどう対応するか

次に、「デジタル化を進める上での課題として人材が挙げられる」とした上で、各社どのような対応をしているかについて、今野氏が質問した。

課題や技術のシェアを行う

ひびき精機では、社内SEが2名しかおらずリスクが高い状況であるとした。今後は外部人材の採用も検討していく予定だというが、現状は社内で教育していくことを考えているという。

その中で、TPM(トータルプロダクティブメンテナンス)活動に力を入れている。TPM活動とは、社員全員参加の生産保全活動である。現場の作業者が現場の課題を提示し、システムでどのように課題を解決するのかということを、社員が社員に対してプレゼンを行う機会を作っているという。

社内でどのような技術が使われているかということをシェアすることで、経営者から若手社員までが社内の状況を把握した上で改善活動を進めることができるようになっている。顧客の課題や現場の課題、社員1人1人の課題を社内全体でシェアすることで人材教育を進めているとした。

自社の身の丈を理解する

カワトT.P.Cの桐田氏は、自社の身の丈を理解することが重要だとした。

世の中には、雑誌や新聞などにデジタル化に関する興味深い情報が多く書かれているが、それを自社で本当に運用できるかということを常に考えているという。大手企業などの人材が豊富な企業の場合、新しい技術を入れても運用ができるのかもしれないが、自社で運用しようとした場合、たくさん投資したとしてもうまく運用できないのではないかと考え、中々第一歩が踏み出せないという状況が地方工場や中小企業にはあると考えているそうだ。

カワトT.P.Cでは、初めのハードルをかなり低く設定し、外部から人材を入れなくても自社で運用ができるレベルから、自社の身の丈を理解した上で第一歩を踏み出すことにしたという。

自社内でできる範囲で導入と運用を進めることで、そのレベルまでは社員が成長することになる。そうしたらまた次の一歩を踏み出すということを繰り返し行うことが必要だと桐田氏は考えているそうだ。カワトT.P.Cでは、失敗しても良いと考え、小さな一歩をどんどんと早く積み重ねていくことが成長につながっていくということを全社員に共有している。

デジタルに関する知識を持つ

ビーライズの波田間氏は、製造業にデジタル技術を提供する立場として、デジタル技術の要点がわかっている人材が必要であるとした。実際にITシステムの運用などが出来なくても、技術や知識を知っていることが重要であるという。

実際にサービス提供者とやり取りをする際に、コスト感やどんな部分が不足しているのかということを、話し合う必要があるからだ。

デジタル化を進めるためのリーダーシップ

続いて、今野氏は、デジタル化の成功要因は経営者のリーダーシップにあるとした上で、リーダーシップをどのように発揮しているかを質問した。

顧客の要望ありきのデジタル化

ひびき精機では、主に半導体産業と航空宇宙産業に対し部品を製造し供給しており、2つの産業の顧客からの要望があったことで、デジタル化が加速したと考えているという。

半導体産業は、製造業の中でもリードタイムが短く、多品種少量生産であるため、システムを導入しなければ納期遅れが発生してしまう。そのため、ひびき精機では、1990年代からシステムの導入のためのIT投資をしていた。

航空宇宙産業では、製品の品質を担保するために、5Mによってプロセス保証をしなければならない。ひびき精機では、半導体産業で投資をしたITリソースに対し、更にプロセス保証ができるよう使いを行った。

どちらの産業も、顧客からの要望があったことで、社員が動くようになり、その結果デジタル化が進んだそうだ。顧客を開拓する中で、デジタル技術が必要になった。

初めから、デジタル化を目的にして取り組もうとすると失敗してしまうのではないかと松山氏は述べた。

自ら手を動かす

カワトT.P.Cは、デジタル化を進める際に、初めは商社などに頼んでみることを検討したというが、企業によって状況がまちまちであるため、ソリューションを買っただけではすぐに導入出来なかったという。

桐田氏が悩んで社長に相談したところ、「自分でやれ」と言われたそうだ。自ら手を動かすことで、理解を深め、何が目的であるかをベンダーときちんと話せることが重要であることにそこで気付くことが出来たという。

現在は、新しい技術などを導入する際は、桐田氏がまず自分で手を動かし方向性を示した上で、社員を巻き込んでいくという方法を取っているとした。

経営者が粘り強く案件を進める

波田間氏は、経営者側の仕事として、組織が現状維持を望んでいたり、変化を望まなかったりした場合に、どう上手く調整するかということが重要であるとした。

DXの本質である、ビジネスモデルを変えたり、新規の顧客を獲得するという部分は、経営者の仕事であるという。波田間氏は、担当者レベルでスタートした案件は、一度納入まで進んでもなかなか継続しないことが多いとした上で、経営者が粘り強く案件を進めていくことが重要であると述べた。

デジタル技術に感じる可能性

最後に今野氏は、先進的なデジタル技術に関してどのような可能性を感じているかという質問を行った。

松山氏は、技術伝承をデジタル化で一番解決したいとした。暗黙知の形式知化が上手く進んでいないとし、金属を薄く削る職人技をXRによって形式知化していきたいと述べた。更に、Industrie4.0にも注目しており、工場間をつなぐ取り組みも進めていきたいとした。

桐田氏は、従業員がいかに働きやすくなるかということを実現するためのツールとしてデジタル技術を使っていきたいと述べた。桐田氏は、孫の代までつなげていく会社経営をしたいとしている。

波田間氏は、バーチャルとフィジカルがどんどん融合していくだろうと考えているとした。様々なデジタル技術によって、仕事がどんどん早く進むようになり、属人化が減ると考えられる。効率化が進む分、人間にしか出来ない創造的な仕事が増えるようになると良いと述べた。

今野氏は、最後に、世の中にはたくさんの情報が出回っているが、自分たちに必要な情報をしっかり取り込んでいくべきたとし、コツコツと取り組むことが重要であるとした。今回出た話は、地域に根ざした工場にとって、言われてみれば当たり前だという部分も多かったが、仕事をしていく中で見失ってしまう部分でもあるとした。

小畑俊介

大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。