• 21/03/2023
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1300万本突破の「あつ森」、巣ごもり需要急増でも喜べない事情とは?

新型コロナウイルス感染拡大に伴う「巣ごもり」需要に沸く家庭用ゲーム業界。新作ソフトウエア「あつまれ どうぶつの森」に代表される任天堂をはじめ、ゲーム各社の足元の業績は好調だ。一方、新型コロナの影響でソフト開発の遅れが懸念されるほか、部品調達の停滞によるゲーム機の出荷にも影響が生じている。コロナリスクへの対応力が問われている。(京都・大原佑美子、大阪・園尾雅之)

家庭用ゲーム機好調 「あつ森」6週間で1300万本

家庭用ゲーム業界で好調さが目立つのが任天堂だ。

2020年3月期連結決算は営業利益が前期比41・1%増の3523億円。家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の販売台数は同24・0%増の2103万台と17年の発売以降最高で、スイッチ向けソフト販売本数は同42・3%増の1億6872万本だった。

「あつまれ どうぶつの森」が3月の発売から6週間で1300万本(ダウンロード版含む)を販売するなどスイッチ向けソフトで過去最高の出だしとなったほか、期中に発売した「ポケットモンスター ソード・シールド」など新作ソフトがハードウエアの販売を押し上げた。

ハードを持たないソフト開発企業も同様だ。20年3月期に過去最高の業績を達成したコーエーテクモホールディングス(HD)。オンライン・モバイル分野の伸長がけん引、売上高は同9・4%増の426億円となった。IP(知的財産)許諾タイトル「三国志・戦略版」が貢献し、営業利益は同16・6%増の141億円となった。カプコンは「モンスターハンターワールド:アイスボーン」などのソフト販売が堅調に推移し、20年3月期の営業利益は同25・8%増の228億円で過去最高を更新した。パッケージ販売からダウンロード販売へのシフトを進め、コストを抑えて利益率を高める戦略も奏功した。

1300万本突破の「あつ森」、巣ごもり需要急増でも喜べない事情とは?

快走を続けるゲーム業界だが、先行きには慎重だ。任天堂は21年3月期について、売上高が同8・3%減の1兆2000億円、当期利益が同22・7%減の2000億円を予想する。古川俊太郎社長は「新型コロナの影響で(ゲーム機の)部品の調達に課題が生じている。4月以降の生産に影響が出ており、夏頃に収束する」と予測。供給の遅れで、スイッチの販売台数は同9・6%減の1900万台、スイッチ向けソフト販売本数は同17・0%減の1億4000万本に設定した。

コロナ禍によるソフト開発の遅れも懸念だ。古川社長はコロナ対策による在宅勤務の導入で「開発行為に影響が及ぶ。長期化すれば同じ効率は求められない」と新作ソフト開発の遅れを指摘する。コーエーテクモHDも「ゲーム開発を含む事業面での影響について慎重に見極める必要がある」(襟川陽一社長)と、21年3月期見通しの公表を見送った。

カプコンも同社のクリエーターが在宅勤務を余儀なくされている。戦力ダウンは避けられないとした上で、野村謙吉取締役専務執行役員は「約2000人のクリエーター全員が新作コンテンツの制作に携わるわけではない。工程の見直しなどで対応したい」とし、21年3月期の新作コンテンツは予定通り発売する計画。ダウンロードなどのデジタル販売の販売比率も高水準を維持し、8期連続の営業増益を目指す。

既存タイトル積み上げ ハード・ソフト、機動的に投入

野村証券の山村淳子リサーチアナリストは任天堂について「既存タイトルを中心に好調な販売本数、台数の積み上げを維持できれば足元のポジティブな流れを年末商戦へつなげられる」と指摘。高効率な開発体制に定評があるコーエーテクモHDについても「新型コロナ感染症の影響による一部タイトルの発売時期の遅れが、同社の成長ストーリーに与える影響は限定的」と見る。

新型コロナ影響で、コンピュータエンターテインメント協会は9月開催予定の展示会「東京ゲームショウ2020」について、展示会場での開催を中止、オンラインによる開催を検討している。ゲーム各社は例年、同展示会に向けて販売戦略を練る。

イベントの概要が不透明な中、会員制交流サイト(SNS)を活用した情報発信など、各社の販売戦略にもより柔軟な対応が求められる。

年末商戦に向け、ソニーと米マイクロソフトは次世代機を投入予定で、ゲーム業界はさらなる競争激化が進む。商機を逃さずにハード・ソフトを機動的に投入できるか否かが、コロナ禍での勝負の分かれ道となりそうだ。

日刊工業新聞2020年5月14日

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