• 22/08/2022
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異業種視点でみた自動車業界…ソニー「Sense the Wonder Day」

ソニーグループのソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)が25日、「Sense the Wonder Day」というイベントをネットで世界配信した。

◆ソニーの一グループ企業の発表に6400人以上が注目

このイベントは、「~Day」と名付けられたように通常のプレスカンファレンスや記者発表とは異なり、聴衆はソニーグループの全ステークホルダーを対象にしたものだ。つまり、記者向けの発表ではなく、グループ企業、パートナー企業、同業・異業種他社に向けてSSSの新しいスローガン「Sense the Wonder」を全世界に向けて発表するためのイベントだ。

発表は日本時間の午後1時、ほとんどが日本語で行われたにもかかわらず、ライブストリーミングの視聴者カウントは6400(6.4K)を超えた。もちろん、アップルのWWDCやテスラのBattery Dayなどのライブ視聴数に及ばないものの、一半導体企業のプライベートカンファレンスのライブ視聴数としては、グループ企業の動員があったとしてもかなりの数といえる。

この背景には、数週間前、ソニーグループ吉田憲一郎会長がCESのプレスカンファレンスで新しい「VISION-S 02」と自動車事業へのさらなるコミットメント(EV市販を示唆する内容)を発表したことがある。加えて、コロナパンデミックによって引き起こされた世界的な半導体不足が、世界の製造業サプライチェーンの脆弱性をあらわにしたからだ。

ソニーのCESでの発表を受け、半導体事業を担うグループ企業(SSS)がパートナー企業やその候補、市場に向けて発表を行うとなれば、注目しないほうがビジネスセンスを疑われる。

◆センシング技術とモビリティビジネスの関係

発表内容のうち、自動車産業に強く関係するものは次のとおりだ。

異業種視点でみた自動車業界…ソニー「Sense the Wonder Day」

・イメージング&センシングテクノロジー・モビリティ進化(AI・ロボティクス)・IoT統合ソリューション(AITRIOSとELTRESネットワーク)

イメージセンサーやMEMS(加速度・環境センサー)など各種半導体センサーとAIは、CASE車両において欠かせない要素技術だ。ソニーは監視カメラ、プロ用映像機器でイメージセンサー技術を持っているが、自動車のADASや自動運転用途となると、デジカメなどの画像の再現性や表現力だけでは十分とはいえない。暗視性能や高コントラスト環境における画像認識能力が求められる。

SSSが力を入れているのは、センサーテクノロジーとAIの融合だ。センサーは電圧や映像信号を出力するだけでなく、演算処理や画像認識などインテリジェンスな機能が求められている。センサーとAIの融合は、ボッシュも戦略の柱に据えている。ボッシュも車載電子部品だけでなく、スマートファクトリーからスマホを含むMEMS市場、家電まで手掛けている。自動車サプライチェーンではTire2にあり、ソニーと近いポジションと言える。

センサーとAIの融合ソリューションの筆頭は自律走行や自律制御を含むロボティクスだ。ソニーEVである「VISION-S」はソニー本体のAIロボティクス事業をSSSの賜物ともいえる。今後は、新事業会社となる「ソニーモビリティ」がEVや(アイボやドローンを含む)ロボットの製品・ソリューション企画や販売プロモーションを手掛けることになるのだろう。

◆AITRIOSが示唆する業界変革

センサーテクノロジーをベースとしたソリューションプラットフォーム「AITRIOS」は、一見、自動車と関係ないように見えるが、そうではない。AITRIOSは、製造業や機器開発ベンダー、AI開発者、アプリベンダー、ソリューションベンダーを結びつける開発環境・クラウドサービス・マーケットプレイスの土台となるもの。マイクロソフトのAzureをベースに構築される。

MEMSやイメージセンサー、環境センサーは、いまやあらゆる工業製品、民生機器に搭載されている。前述したようにそれらのインテリジェント化も進む。企業が製品やサービスを開発するとき、データ交換やAPI利用が共通化されたプラットフォームの存在は、設計・開発効率に貢献する。

現状、AITRIOSはSSSのイメージセンサーのソリューションプラットフォームだが、対応センサーは拡張されていくという。将来的には、IoT機器向けのプラットフォームや(センサーの塊である)CASE車両を開発する自動車メーカーの車両開発プラットフォームにもなりえる。たとえばの話だが、AITRIOSにTier4のAutowareやHUAWEIのHarmonyOSのようなスマートカーOSの開発キットやAPIライブラリが利用できるようになったらどうなるだろうか。

VW.OSやトヨタのアリーンはそれぞれ自社プラットフォームを構築しているが、よりオープンなビークルOSが利用できるプラットフォームがあれば、新興EVメーカー、ロボットタクシープロバイダーは、AITRIOS上で車両開発からサービス提供まで統合的に構築できるようになる。車両本体はVISION-Sやそれをベースとした車両を利用すればよい。

◆自動車にIoTデバイスとしての価値が付与される

ほかにも、厚木テクノロジーセンターリニューアルに伴う、施設内のオープンキャンパス化や九州地区における半導体工場増設(Fab5)などの発表も行われた。これらも自動車産業と無関係ではない。

今回の「Sense the Wonder Day」をソニーグループの半導体製造会社の発表ととらえると、なにか新しい発表や新技術のアンベールがあったわけでもなく、自動車業界とはあまり関係ないと思ったかもしれない。しかし、発表が示唆する内容はEUなどで進む第四次産業革命や業界サプライチェーンの再編でも言われていることだ。

通常、ディスラプター(破壊者)と呼ばれる企業に既存市場を破壊するという明確な意識や目的はない。彼らのビジネスによって市場構造やエコシステムが変わる。結果として、変革に追従できず淘汰される企業がでてくると、淘汰される側から破壊者に見えるだけである。

グローバルなプラットフォーマーのコアビジネス領域の中では、自動車本体は、すでにIoT機器でありパーソナルデバイスのひとつになっている。だからといって、既存の自動車の価値がなくなるわけではない。既存の価値の上に新しい価値が、あるいは既存の価値と並行して新しい価値が生まれるだけである。淘汰される、競合する、協業するかは各社の戦略しだいだ。