• 23/04/2022
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年末年始番組が「残念すぎる内容と結果」に終わった根本背景

2021年の『NHK紅白歌合戦』はNHKホールが工事のために使えず、東京国際フォーラムをメイン会場として行われた。NHKホールではできないような演出も確かに見られたのだが…(写真:共同)

年末年始番組が「残念すぎる内容と結果」に終わった根本背景

結論から書こう。この年末年始は、テレビ業界にとって残念な結果に終わった。多くの人に「もう地上波の年末年始特番は、見なくていいかも」と感じさせてしまったのではないか、という気がするからだ。初の紅白に主演抜擢…!上白石萌音&萌歌「躍進する姉妹」【写真】ざっくりまとめると、民放各局には、やる気もお金もなかった。NHKには、やる気もお金もあったが、使う方向が完全に間違っていた。目指す方向性は両者180度違っていたが、視聴者に「もう年末年始の特番に見るべきものはない」という結論を出させ、ただでさえ進んでいるテレビ離れを一層加速させたという意味では、民放もNHKも全く同じだった、というテレビマンの端くれとして実に悲しくなる年末年始だったのだ。民放については、日本テレビの『笑ってはいけない』シリーズをはじめとする「年末年始おなじみの特番」が多分お金の問題でなくなり、その代わりに放送された番組はほぼ「やる気もお金もない」番組ばかりで、想像を上回るダメっぷりだった。手間もお金もかかる大規模な特別番組はほとんど制作されず、お笑い芸人さんにおんぶに抱っこの番組ばかりが放送された。理由は簡単に推測できる。とりあえずお笑い芸人さんを呼んで、漫才やコントなどのネタをしておいてもらえば、そこまでお金も手間もかからず「なんとなくそれなりに面白い感じの」番組ができてしまうからだ。例年なら「演芸番組」が大々的に始まるのは年が明けて「新春」になってからだった。「おめでたい年のはじめに、演芸を見る」というのが習わしだからだ。しかし、今回は「節約モード」のためなのか、年末から早くもテレビは「演芸番組」オンパレードになった。しかもどの局を見ても「M-1王者が出場」などと、コンクール勝者が出ているのを売りにしている番組ばかりで、同じメンツが出てきて同じネタをやるばかり。さすがに視聴者が飽きるのも当然だし、M-1王者を出したところで、M-1以上に盛り上がる番組が作れるはずはなく、「結局M-1だけ見ておけばいいかな」と多くの視聴者に思わせるという結果を自ら招いたというのが、民放のだいたいの総括と言えるのではないか。あとはせいぜいレギュラー番組のスペシャルでお茶を濁した感じ。それすら特筆するほど面白いものはなく、なんだかんだ言って一番面白かったのは「箱根駅伝」だった……的なお寒い現状だったと言っても過言ではないだろう。続いてはNHKだ。今年の紅白歌合戦は、ツッコミどころ満載の出来栄えだった。確かに莫大な制作費が、特に技術関係でガッツリ使われていたのがよく分かる仕上がりだったし、「そろそろ旧態依然とした紅白を変えなければならない」というやる気もひしひしと感じた。しかし結論から言えばその出来は決して良いと言えるものではなかったのではないか。まさに「やる気もお金もたっぷりあるが、使い方が完全に間違っている」という結果に終わったと私は思っている。そもそもなぜ、紅白歌合戦はこれまで「国民的人気番組」だったのか、その理由を私はこう分析する。① 大晦日という年の暮れに生放送で長時間行われる「大々的お祭り番組」であり② 家族揃って一年を振り返りながら「今年一年こんな歌が流行ったよね」と盛り上がり③ 紅組と白組のどちらが勝つか、という誰にも得も損もないノホホンとした茶番をボーッと見られる「紅白を改革する」のであれば当然だったのかもしれないが、正直言って今回の紅白は、大金と改革の燃えるような情熱を注ぎ込んだ挙句、これら「紅白を見るべき理由」を自ら全否定した結果に終わったと言えるのではないだろうか。まずは①の「大々的お祭り番組」についてだ。今回恒例のNHKホールを飛び出て、メイン会場が東京国際フォーラムになった。そして渋谷のNHKの各スタジオなどの中継先を結び、そこに莫大なお金をかけて最新の撮影・照明機材を大量投入し、バーチャルプロダクションをはじめ、豪華な最新技術を駆使したことは、圧巻ではあった(「みなさまの受信料を使った技術開発は無駄にはなっていません。その成果をご覧に入れます」というメッセージの無言の圧が物凄かったが……)。その結果カメラワークも画面演出も凝りすぎて複雑になりすぎて、とてもではないが生のスタジオで普通に撮影したとは思えない仕上がりになってしまった。皮肉なことにこれが「生放送の盛り上がりとお祭り感」を完全に打ち消した。「よくできたミュージックビデオ」を次々流しているような感じになったのである。紅白歌合戦は言ってみれば「フェス」なわけだから、多少のミスがあろうと「いままさに渋谷のNHKホールで生で盛り上がっている」という感じがイイわけだし、それこそが年越しの特別感を演出していたわけだが、「まるで収録」――しかも実際に何人かのアーティストに関しては「本当に事前収録」だったわけで、これでは盛り上がらないことこの上ない。しかも映像を綺麗に作り込みすぎたことと、客席の音がほぼカットされていたこと、ないしは無観客のスタジオだったことで、実際にはどうだか知らないが出演したアーティストの8割方は「口パクなのかな」と思ってしまう仕上がりになり、さらに盛り下げた、と筆者は感じてしまった。続いて②の「今年一年こんな歌が流行ったよね」についてだが、「今年流行った」と言える歌はほとんど無かったのではないだろうか。筆者の認識では今年流行った歌は多分『勿忘』などほんの僅かで、あとは「今年話題になった人が出場してはいるけど、なんでその歌なん?」というアーティストが多かった感じがする。「NHK関連曲と、古い曲と、知らない曲」、この3本柱で構成されていたと私は思った。お年寄りから若者まで、知らない曲が多かったのではなかろうか。「なにこの曲? 知らない」という曲が結構な割合で演奏され、しかも今回MCや会場のトークが極めて短かったから、「ほぼ何の説明もなく」次々知らない曲ばかり流れてくれば、「あなたはこの番組のお客さんじゃないから見なくていいんだよ」と言われているような気にもなる。しかも、もうひとつの問題は「古い曲」の中身だ。中には「有楽町で逢いましょう」など60年以上も前の曲もあったけれど、その多くはだいたい「20年くらい前」の曲だった気がする。つまり、「前の曲ではあるがお年寄りにはさほど懐かしくない」曲、かつ「Z世代などの若者にはさっぱり分からない」くらいの年代の曲が中心になっていて、結局一番懐かしいと感じるのは「30代から40代くらいの視聴者」だったのではないだろうか。結局これって「番組制作スタッフたちの年齢じゃないの?」という気もするわけである。先ほどの「撮影機材にたっぷりお金を使ってカッコよく仕上げてみました」という点と合わせて考えると、なんだかんだ言って「お客様のためというより自己満足のために作った紅白歌合戦だったんじゃないか疑惑」が色濃く浮かび上がってしまうが、これは私の考えすぎだと思いたい。いや、きっと私の考えすぎでしょう。ですよね?NHKの人?③の「紅組と白組の戦い」について。これはあちこちで今議論されていることなので簡単に流したいのだが、言いたいのは「紅白自体はめでたい色だから、別に紅組と白組に分かれることに何の問題もないのではないか」ということだ。ジェンダーの兼ね合いで「男と女に別れて争う」のが時代にそぐわなくなってきている、という視点は全く賛同する。でも、だったらシンプルに「出演するアーティストをくじ引きかなにかで紅組と白組に分けて争えばいいのでは?」と思う。NHKは、何をゴチャゴチャ難しく考えているのだろう? と思ってしまうのだ。なんだか分からないが「カラフル」とかいうテーマにして「多様性」的なことを説教臭く言われたり、取ってつけたみたいに「SDGs」とか「パラリンピック」をほんのチョロっと要素として付け加えることを視聴者は望んでいるのだろうか?メイン会場はカラフルな生花モリモリになり、ゆずに至っては肩に花を背負わされてデコレーションされ、局アナまでなんだか妙にド派手な衣装になっていたことで、「なんとか紅組と白組をできるだけ目立たなくしよう」と努力しているのが滑稽だと感じてしまった。その努力は誰に向いているのか? 本当は視聴者ではなくて、「紅白歌合戦をなくそう」と言っているNHKの偉い人に向けたアピールなのでは? と勘繰りたくなる。その割に「やはり投票で紅白の勝ち負けは決めるんだ」と思ったし、「紅は女性、白は男性」というジェンダーバイアスを感じさせる枠組み自体はしっかり堅持していることに、そこはかとない疑問が残ってしまった。だから個人的には素直に「カラフル」というテーマを受け入れられなかった。今一度「紅白に誰も説教くさいテーマなんて求めていない」ということと、「若い層にも見てもらえるように頑張るのはいいが、お年寄りを切り捨てない」ということ、そして「あなたたちの努力は本当に正しい方向を向いているのか」ということを考えてみた方が良いのでは?というのが紅白歌合戦を見ての私の結論だ。そして、民放もNHKも「見せたい視聴者層に見せる」という発想で番組を作るのをそろそろ考え直した方が良いのではないだろうか。その発想は「上から」だし、「広告会社の考え方であり視聴者を金としかおもっていない」感じがして傲慢で不遜だ。「見せたい視聴者に見せる」ではなく「見たい視聴者に喜んで見てもらう」に考え方を変えてほしい。そうしないとこのままでは若者だけではなくお年寄りも急速に地上波テレビから離れていってしまうだろう。気がついたら「そして誰もいなくなった」ということになりかねない。そんな危機意識をテレビマンの端くれとして強くした年末年始だった。ぜひ、次の年末年始には、面白い年末年始特番が見たい。お年寄りから若者まで揃って笑ってノホホンと、幸せな気分で見たいのだ。文:鎮目博道/テレビプロデューサー・ライター92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。近著に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)

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