• 30/08/2022
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シェアオフィスが拓くこれからの働き方とは。メリットやコワーキングスペースなどとの違いも含めて徹底解説

[監修] 東京大学大学院 経済学研究科 准教授 稲水伸行本記事は2022年1月時点の情報を元に作成しています。

現在、「働き方改革」に代表されるように、さまざまな要因から働き方の見直しが進んでいます。さらには新型コロナウイルスの感染拡大によって、テレワークが急速に普及したことで、多くの企業や人が「働く場所」について改めて考えるようになりました。

そうした社会の動きの中で、「働く場所=オフィス」という従来の常識にとらわれず、自宅やカフェ、ホテルなど、あらゆる場所を仕事場として捉える考え方が広がりを見せています。「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」といった空間の出現も、その一部です。今回は、アップデートされる「オフィス」の在り方とその可能性、そして注意点を解説します。

見直しが進む「働き方」

近年、急速に進みつつある「働くための環境」の見直し。その背景には少子高齢化や価値観の多様化に加え、感染症の拡大など、さまざまな要因が考えられます。

働き手の価値観の多様化による影響

日本が直面している課題の一つに少子高齢化があります。それに伴う労働人口の低下は、あらゆる業界で深刻な労働力不足を生み、雇用は買い手市場から売り手市場へシフトしています。

また「24時間戦えますか」が1989年の新語・流行語大賞にランクインしたことが示すように、かつて日本では「プライベートよりも仕事」という価値観を多くの人が持っていました。しかし、社会の変化に伴い、働き手の価値観は大きく多様化へ進んでいます。平成19年には関係閣僚、企業・労働組合・地方公共団体の代表等からなる「官民トップ会議」が「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定し、近年は働き方改革が大きく進み残業時間を制限するなど過労を防ぐ方向へと進んでいます。

そうした状況に応じ、各企業は柔軟な勤務時間の許容、在宅ワークを含む勤務地に対する選択肢の拡充など、女性や高齢者、外国人を含む、従来よりも幅広い層をターゲットとしながら、現代の多様な価値観にフィットした魅力的な労働環境や条件を用意できるよう工夫をこらし、人材の確保を進めています。

新型コロナウイルスの感染拡大による影響

2020年4月の緊急事態宣言に伴う外出自粛により、数多くの企業がテレワークを導入し、通勤せずに自宅から仕事をするリモートワーカーが増加しました。

個人レベルでは、通勤時間がなくなったことで余暇時間が確保できた、一人で作業に没頭することができ生産性が向上した、などプラスの影響が見られるケースがある一方で、自宅だとかえって作業に集中できない、どんな状況であっても出社を余儀なくされ不平等感を覚えるといったマイナスの声も聞かれました。

企業など組織のレベルでは、リモートワークの従業員の増加で、従来規模でオフィスの面積を確保する必要がなくなったことによる、固定費の削減などのメリットがあった一方で、従業員同士がオフィスで顔を合わせる機会が減り「コミュニケーションの減少」「エンゲージメントの低下」「モチベーションの低下」などが課題として取り上げられるケースもありました。

働く場としての「オフィス」のアップデート

前項では少子高齢化、価値観の多様化、コロナ禍などにより、働き方の見直しが進んでいることを説明しました。この大きな変化に対応するための手段として、「イノベーション促進」「テレワークとオフィスワークのハイブリッド化」という観点からのオフィスの見直しに注目が集まっています。

イノベーション促進

世の中の多様化と変化が加速する状況において、企業には従来の成功モデルにとらわれないイノベーションの創造が求められます。そしてイノベーション創出の方法として、多様なバックグラウンドを持つ人々が、それぞれの知見、スキル、価値観などを尊重しながらコラボレーションを行うことが効果的であると言われています。このコラボレーション手法として代表的な考え方が、「オープンイノベーション」であり、これは、自社の外の人や組織から、知識や技術をお互いに取り込み合うことで新たなアイデアが生まれていくというものです。「働く場所」としてのオフィスには、そうした多様性溢(あふ)れる人材が物理的に集まり、顔を突き合わせる場としての設計が求められるようになっています。

 シェアオフィスが拓くこれからの働き方とは。メリットやコワーキングスペースなどとの違いも含めて徹底解説

テレワークとオフィスワークのハイブリッド化

アップルが2021年9月から週3日の出社を要請し(2022年1月の時点では無期限で延期を決定)、アマゾンとグーグルはオフィスの増床計画を明らかにするといった動きから、「テレワーク」の普及で生じた課題に対応するため、本社集約型のオフィスワークとテレワークのハイブリッド化が今後のオフィスに求められる戦略の一つであることが見て取れます。

また、コロナ禍の終息後も、少子高齢化に伴う労働人口不足に対応するためには、女性や育児世代、高齢者の雇用の視点からテレワークは必須の働き方の一つとなるでしょう。

とはいえ、先述のように職種や業務内容によっては、コミュニケーション不足等の問題が生じるケースも存在します。そこで本社オフィスを利便性の高い都心部に集約・拡充しつつテレワークを促進する動きや、サテライトオフィスの設置や外部シェアオフィスと契約しその利用を推奨するなど、働く場所の自由度を確保しながら、必要に応じてコミュニケーションが促進される仕組み作りが求められるのではないでしょうか。

●オフィスを拡張する「シェアオフィス」という考え方

シェアオフィスとは、自社に限らず、他社の従業員や、フリーランス、個人事業主などの利用者が利用する会員制のオフィスのことです。個別の占有スペースと契約するレンタルオフィスと違い、オフィス内の自由な席で仕事をできるフリーアドレス形式での利用が一般的です。

電源、Wi-Fi、プリンター複合機、外部ディスプレー、名刺スキャナー、その他事務用品が用意され、来客を招いてミーティングを行うための会議室を設置しているシェアオフィスも少なくありません。

【コワーキングスペースとの違い】シェアオフィスとコワーキングスペースとの間に明確な違いはなく、「シェアオフィス/コワーキングスペース」と併記しているサービスも珍しくありません。「コワーキング(共同での仕事)」を重視し、シェアオフィスよりも共同作業しやすいスペースを確保している傾向にあると言えるかもしれません。

【サテライトオフィスとの違い】サテライトオフィスとは、「サテライト=衛星」が指す通り、企業の本社とは離れた場所に設置されたオフィスのことで、多くの場合、都市部に本社を置き、地方にサテライトオフィスが設置されますが、近年は通勤や移動時間を短縮するために本社と比較的近い場所にも設置をするケースが見られます。賃料の節約、災害リスクの分散といった目的で設置される場合もあります。

●どこでもオフィスにする「ABW」という考え方

「ABW(Activity Based Working)」とは、業務の内容や気分によって働く場所や時間を自由に選択する働き方を指し、オフィスのみならず、自宅やカフェを自由に移動し、あらゆる場所を仕事場として活用する考え方です。生産性の向上やメンタルヘルスを目的として、自由な働き方を実現するための、新しいオフィスの設計思想として登場した考え方ですが、近年のシェアオフィス等の登場により、それらを含めたより広い意味の概念に変化しています。

これにより、一人で集中したい仕事、オープンに意見を交換したいブレインストーミング、クローズドな会議など、業務内容に応じて柔軟に場所を選ぶことができるようになります。

フリーアドレスとABWの違いは、前者が「固定席ではなく、席が自由である」という“席ありき”の発想であるのに対し、後者はあくまで「人がどうあるか」を中心に考える点にあります。物理的な場所だけでなく、精神的なよりどころも含んだ「居場所」作りを意識し、従業員のコミットメントの向上を目的とした考え方です。

●自社オフィス以外で働くことのメリット

ワーク・ライフ・バランスの実現自宅でのテレワークや、近場にあるシェアオフィスやサテライトオフィスの活用は、通勤時間を削減することができます。それにより、趣味や育児、介護などのプライベートな時間を確保することができるようになります。通勤時間がネックとなり自身が希望する働き方ができず、仕事をするという選択ができなかった人材を採用できる可能性が高まるほか、通勤による疲労やストレスから従業員を守る効果も期待できるでしょう。

イノベーション創出の可能性向上オープンイノベーションの実現には、自社に限らず多様性ある人材との交流が効果的であると言われています。そのためには自社オフィスのみならず、シェアオフィスやコワーキングスペースなどの活用も視野に入れると良いかもしれません。カフェなどの社外環境で働くことにより気分転換ができ、新たなアイデアが生まれる可能性があります。

●外部オフィスを使用することの注意点

シェアオフィスやコワーキングスペースなどの活用には、注意も必要です。 まず気をつけたいのが、セキュリティーです。不特定多数の人が出入りする環境で、仕事における機密情報をディスプレーに表示させたり、電話やビデオ会議で会話したりすることで、情報漏えいなどにつながってしまう危険性があります。物理的なラップトップPCやタブレット端末の盗難などにも気をつける必要があるでしょう。場合によっては新たなセキュリティーツールの導入などにより追加コストが発生する場合もあります。

また不特定多数の人が出入りする環境では話し声や足音などの騒音が気になったり、ビデオ会議や電話の妨げになってしまったりする可能性もあります。個人の特性や業務内容に応じて、働く環境には注意が求められます。

そして自社の業務遂行に必要な設備を導入したオフィスと比べ、シェアオフィスやコワーキングスペースなどは、必要な設備が全てそろっているわけではないケースがあります。カフェの場合、ネット環境が劣っていることや、電源が確保できない場合もあることでしょう。やはりここでも、業務内容と作業を行う場所に用意されている設備とをすり合わせる必要があります。

多様性が求められる現代、オフィスの正解は一つではない

働き方の見直しに対応するため、従来にはない新たなオフィスの在り方が模索されています。自社オフィスの改装だけでなく、シェアオフィスやコワーキングスペースの活用やABWの導入など、自社オフィスの外部に「働く場所」を拡張するという発想も広まり始めています。

自社やチームの状況、人材の特性、業務内容に応じて最適な形を選択していくことが重要です。

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