Interview with Jagwar Twin, an LA artist who became a viral hit in Japan Creating a sound that brings healing effects with "My Truth"
音楽家の経歴やターニングポイントなどを使用機材や制作した楽曲とともに振り返る連載「音楽機材とテクノロジー」。第8回はロサンゼルス出身のシンガー・ソングライター/プロデューサーJagwar Twin(ジャグワー・ツイン)に登場してもらった。 「Happy Face」や「Loser」が日本でバイラルヒットとなったロサンゼルス出身のシンガーソングライター/プロデューサー。特に「Happy Face」はSpotify Japanバイラルチャートでもトップ5に入っており、日本でファンベースが広がっていることは確かだ。今回は、音楽制作を始めたきっかけ、機材を使うにあたって大事にしていること、「Happy Face」の制作秘話などについて、じっくりと語ってもらった。(Kaz Skellington)・「このギターのアイコンはなんだ?」と思って、Garage Bandで遊び始めた――今まで日本でライブをしたことがないのですね。YouTubeのコメント欄を見ていると、日本にはJagwar Twinのファンベースがあることがわかります。JT:そうなんだよ!是非パンデミックが終わったら日本に行きたいよ。ーーLA出身のJagwar Twinは、元々バンドをやっていたのですか?JT:そうだね。Jagwar Twinは一人だけど多くの人とコラボするプロジェクトだ。昔はEye Alaskaというバンドに所属していた。楽しかったよ。ーーその当時からプロデュースなどはやっていたのですか?JT:やっていたよ! 当時高校生だったんだけど、母親が昔のマックを持っていて、多分最初のバージョンのGarage Bandが入っていたんだ。「このギターのアイコンはなんだ?」と思って、Garage Bandで遊び始めた。昔からオーケストラやワールド・ミュージックが好きだったから、いろんな音色で遊べるのが楽しかった。昔から母さんと音楽を聞くとき、「この音はなんの楽器だと思う?」って聞いてくるから、色んな音色を聞き分けることが楽しかったんだ。そこから自分のバンドがレーベルと契約して、Matt Wallaceというプロデューサーと仕事をするようになった。彼がメンターとして、レコーディング機材の使い方とかを教えてくれたよ。ーーそれは何歳ぐらいの出来事ですか?JT:多分15歳か16歳ぐらいだったと思う。多分2006年ぐらいだったと思う。ーー当時ってYouTubeが出たばかりだったり、Myspace全盛期でしたよね? Myspaceを使って音楽のプロモーションとかはしていたのですか?JT:もちろんMyspaceを使っていたさ! 僕のトップ8人はまじで最高だったよ(笑)。今だから言えることだけど、Eye Alaskaのベーシストのクリストファーは、めちゃくちゃ頭が良くて、Myspaceでの再生数を増やすボットをプログラムしたんだ。レコード会社たちは「再生数が多くないと契約できない」って言ってたから、それへの反抗として、ボットで自分たちの音楽を再生しまくったんだ(笑)。ーー当時からそうやって技術を使うことへのアイディアがあったのですね!JT:まぁ全部クリスだったけど、なんとなく技術に対しての親近感はあったね。ーーそのバンドでプロダクションに関わったことがきっかけで、さらにプロデュースをやるようになったのですか?JT:昔から自分が作れる最高のアートを作るのが目標だったんだ。ストーリーを伝えたかった。リリックやボーカルでストーリーで伝えるのはもちろんだが、耳で聞こえるサウンドそのものにもストーリーは宿る。だから、自分のストーリーを伝えるために「サウンド作り」を学ぶ必要があった。自分で作って、自分のストーリーを伝えるのは自分しかできないからね。アーティストは多分ユニークな視点を持っていて、その脳内にあるものを外に出せないと、その考えが失われてしまうんだ。だからラフなスケッチでもいいから、アイディアが伝わるように形に残せるようになることが重要だった。ーーキャリア初期でLana Del RayやAlessoの楽曲を共同プロデュースしていますが、そのレベルに達するまで、どのようにしてプロダクションを学んだのですか?JT:良い質問だね。もしかしたらこのインタビューの趣旨とは違うかもしれないけど、僕は長いことプロダクションの「機材」に心を囚われていた。キックの音がこうあるべきだとか、スネアはこうあるべきだとか、そういうことにフォーカスしていた。でも自分のなかで大きく変わったのは、ツールにフォーカスをするのではなく、自分の中にある「真実」を伝える方法を知ったことだった。「は?」って思うかもしれないけど、アーティストやクリエイターにとって「自分の真実」を伝える方法を理解するというのは、最も重要なことだ。歌うなら自分の体のことを理解していないといけないように、もちろんツールや機材を理解することも重要だ。 でももっと重要なのは、自分でプロデュースしているものが好きで、それを作ることを楽しめていることだ。自分が表現したいことに対して「真」であるか。自分で聞いたときに、自分が表現したかった感情が表現できているか?興奮できるか?「これってカニエのドラムサウンドを再現できているかな?」ということだけを意識しながら作っていても、自分が考えているような真実にはたどり着けない。ツールは自分のストーリーや感情を表現するために使うものであって、ツールそのものに囚われてはいけない。考えるという行為は、人類の誰もが持っている素敵なツールだけど、考えることにハマってしまうというトラップも存在している。だから、その自分の真実を伝えるということができるようになってから、プロダクションも上達したと思う。ーー自分の表現は、他の人では絶対に表現できないですもんね。JT:もちろんテクノロジーを使うのは重要だけど、それは自分が感じていることを表現するためのツールであって、テクノロジーそのものに囚われて自分の真実を表現できなくなってしまうケースもたくさん見てきた。ーー歴史を変えてきたアートはそのアーティストにとっての真実を表現したものだとも思います。このアートについての会話を続けたいのですが、テックのメディアとして聞かないといけないシンプルな質問があります。どのDAWを使っていますか?JT:LOGICを使っているよ。曲作りはLOGICでやって、その後Protoolsでミックスされる。でも僕自身はLOGICを使っているよ。ーーJagwar Twinの曲を聞いたときに思うのが、なんとなく「ノスタルジック」な感覚があるんですよね。もしかしたら同じ時代に、同じようなアーティストを聞いて育ったからかもしれませんが、特にドラムのサウンドからは昔のヒップホップの影響を感じます。ドラムの音はどのようにして作っていますか?JT:曲によるけど、いろんなところから集めたドラムサンプルのフォルダがあったり、たまにSpliceを使ったりしているよ。ーーそういうフォルダは私も持っているのですが、正直集めすぎててどこからゲットしたかとかも覚えてないんですよね(笑)JT:そう(笑)。もうどこからゲットしたドラムサンプルか正直覚えてないことが多い。ーー90sヒップホップのようなドラムの音をゲットするために、テープなどは使用したりしましたか?JT:実際テープはかなり使っているよ。Jagwar Twinの楽曲を一緒にプロデュースしているMatt Paulingが「Revox」のテープを持っていて、ボーカル、ギター、ドラムなどのステムをテープに通したりはするよ。多分RevoxのA77だったと思う。ーーテープの使い方としては、ドラム以外でもどのような使い方をしていますか?JT:テープの使い方で一番独特かもしれないのは、楽曲のチューニングを変えるんだ。僕は自分の楽曲を444Hzでチューニングしている。君なら知ってるだろうけど、多くの音楽は基本的に440Hzにチューニングされている。でも444Hzにはヒーリング効果があるんだ。めっちゃヒッピーっぽい感じの説明になってしまったけど、実際に音がどのように人体に影響を及ぼすかという研究もある。音は細胞や、体内の水分に影響を及ぼすという研究結果もあるんだ。440Hzでチューニングされた音楽は、キツく、ギザギザのパターンを作り出す。432Hzも美しい周波数で、自然なパターンを生み出すから、ヒーリング効果があると言われている。444Hzはもっとスピリチュアルな効果があるし、曲のピッチが少しだけ上がる。クールなテープのサチュレーションもかかるし、ヒーリング効果もあるんだ。ーー楽器を444Hzにチューニングするのではなく、ミックスをした後に、全体を444Hzにチューニングしなおすのですか?JT:そうなんだよ。ギターとかだと444Hzに合わせてチューニングするだけでいいし、ボーカルも少しピッチをシャープ気味に歌えばいいんだけど、多くのシンセとかのプラグインは既に440Hzでチューニングしてあるから、レコーディングの時点で全パートを444Hzで統一するのが難しいんだ。だから440Hzで全部作って、ミックスした後にMatt Paulingがテープでキャリブレーションして、444Hzに変更するんだ。ーー凄く興味深いですね。自分の楽曲でも試してみたいです。JT:実際にはMatt Paulingがこの方法を教えてくれたから、上手く説明できているかわからないけど、企業機密を教えてしまってるね(笑)。でも音楽はヒールしたり、心を広げるためにあると思ってるから、こうやって「チューニングを変える方法もあるよ!」というのを発信したかった。Matt Paulingは天才だからインタビューしたらかなり面白いと思うよ!ーー私が一番好きなJagwar Twinの曲が「Down To You」なのですが、こちらではボコーダーが使用されています。JT:ローランドのVP-03という、とても小さいボコーダーを使用したよ。ローランドの製品は素晴らしいよ。ローランドにシャウトアウトしたいね。ローランド製品はたくさん使ってるよ。ーー他に使用しているローランド製品はあったりしますか?JT:Roland CloudにあるVSTとかは使ったりしているし、Roland System-1とSystem-8のシンセも素晴らしいよ。・「表現」をする最低限のツールは、誰もが既に持っているーーJagwar Twinのサウンドに欠かせないプラグインを選ぶとしたら、どれでしょうか?JT:僕はSoundtoysをたくさん使用するよ。多分その中でも「Decapitator」を最も使用しているよ。ーー「Decapitator」とはどのような効果をもたらすプラグインですか?JT:基本的にはディストーションだよ。「Punish」というボタンがあって、それを押すと「グシャアア」って凄い感じになるんだ。ドラムのバスとかにかけて、クランチーな感じにするのが好きなんだ。ボーカルにかけてもクールだね。正直にどんなトラックにかけても、クールになる。ちょっとだけかけるとかね。とてもいい感じにサチュレーションがかかるよ。Soundtoysは他にも素晴らしいプラグインをたくさん出しているよ。「Echoboy」とか「Primaltap」とかも素晴らしいよ。ーー私は自分の声はなるべく自分でミックスしたい派なのですが、Jagwar Twinも自分の声において「これは欠かせない」みたいな機材ってありますか?JT:そうだね。自分が好きなチェインはあるけど、エンジニアの人とか、Matt Paulingのボーカルチェインを使用することも多いかな。個人的に、自分のボーカル関連の機材としてかなり気に入ってるのは「Shure SM7」だね。シンプルだし、持ち運びもできるし、曲によるけど高価なマイクよりもこっちを使うときもある。ーーSM7はダイナミック・マイクですけど、レコーディングやラジオで使用している人が多いイメージです。かなり良いマイクですよね。JT:そうなんだよ! しかも安い。ずっとSM7を使っていたから、去年高価なマイクを買ったんだけど、結局SM7のほうが好みだったから高価なマイクは返却したんだ。ーーSM7のどのようなところが好きですか?JT:自分の声は結構ソフトというか、綺麗な声をしていると思う。強く歌おうとしても、そこまで強くならない。SM7はそんなにクリアではないんだけど、自分のソフトな声でも少しロックっぽい感じになるんだ。超クリアなマイクでソフトに歌うと、完全にR&Bっぽい感じになる。もちろん曲によってはクリアなマイクを使いたいときもあるけど。SM7は本当に何にでも使える。ベースキャビネットとかバスドラに使用しても全然いい感じになる。もし1つしかマイクを所有してはいけなかったら、確実にこのマイクだね。ーー特殊な機材の使い方をした楽曲とか、あまり他の人がしていない方法で制作した楽曲ってどのアーティストにもあると思うのですが、Jagwar Twin的には、そのような「作り方が特殊」な楽曲ってありますか?JT:多分ありすぎて1つだけ思い浮かべるのが難しいな。1つあげるとしたら「Happy Face」かな。あれは小さい頃から家にあったメロディカ(鍵盤ハーモニカ)を使用したんだ。しかもただレコーディングしたんじゃなくて、Matt Paulingと遊んでいるときにiPhoneのボイスレコーダーで録った音源をそのまま使用したんだ。ーーiPhoneのマイクって実は結構いいですよね。なんか独特のコンプレッションがかかってる感じがあって。JT:実際、僕はiPhoneのマイクをかなり使うよ。家にスタインウェイのピアノがあるんだけど、それをiPhoneでレコーディングするのが好きなんだ。他のマイクにはない、ザラザラした感じが出る。あと「Happy Face」に関してはベースも実はベースじゃなくて、ギターで弾いてピッチをオクターブ下げたんだ。しかもドラムは21 PilotsのJosh Dunが叩いた。ーーJagwar TwinからはTwenty One Pilotsからの影響を感じます。JT:彼らは私達の世界と世代において、かなり大きなインパクトをもたらしたアーティストだと思う。Joshのドラムもかなり独特だし。彼らの歌詞も、世界に必要なものだった。ーーメロディカは普段からプレイしているのですか?それともランダムに使用してみたという感じだったのですか?JT:昔から持ってはいたけど、日常的に演奏してはないかな(笑)ーーミュージシャンって昔から家にある、たまーにプレイしてみる楽器ってありますよね。私の家にはオカリナがあって、たまに吹いてます(笑)JT:『ゼルダの伝説 時のオカリナ』をプレイしたことある?ーーもちろん! 今でも日常的にNintendo 64のゲームをやっていますよ!JT:N64は今でも僕が唯一プレイするゲーム機だよ。『時のオカリナ』と『ムジュラの仮面』は本当に名作だ。あのゲームには世界の真実が多く隠されている。ーー今は持っていて、昔持っていたらよかったのに、と思う機材などはありますか?JT:うーん。機材は特にないかな。唯一「昔から持っていたら良かったのに」と思えるものは、「自身への理解」だな。実際ガレージバンドだけでも、テープレコーダーだけでも、「自分の真実」や「自分の視点」を伝えることができれば、素晴らしい作品は作れる。テックのインタビューなのにこんな答えになってしまったけど。でももちろんパソコンとかは必要かもしれない(笑)。ーー私も個人的にはそう思います。もちろん機材はあったほうがいいけど、歳を重ねて、色々なものを経験するうちに、「表現」するのにあまり多くのものはいらないということを思うようになりました。もちろん機材はあったほうがいいけど。JT:そうなんだよ。今まで最高峰のエンジニアとかプロデューサーたちと仕事をしてきたけど、皆そう言っている。機材はあったら最高だけど、ツールでしかない。ツールに自分を利用されてはいけない。そうやって、表現が死んでいくアーティストたちを見てきたし、自分の死が見えたときもあった。機材で何ができるのかにフォーカスしすぎて、自分のなかにあるものを見失っていたときがあった。「この機材をゲットさえすれば良くなる」とか思っていたときもあった。「この機材を使っていないから作品がよくならない」とか、「こういうサウンドではないから、人々に気に入られない」とか思っていた時期もあった。ーー映像ついてもお聞きしたいです。Jagwar TwinのMVは、私の作品と親近感があると思っていたのですが、ご自分でディレクションされているのですか?それとも映像チームがいるのでしょうか?JT:例えば「Happy Face」とかは、自分が持っているリソースを使ってベストなものを作るということを象徴していると思う。この自粛期間中に、メジャーレーベルとの契約が解消になったんだ。メジャーのマネージメントもなくなって、そういう大きなチームがない状態になった。それまでは、成功するには予算と大きなチームが必要だと思っていたんだけど、自分が表現したいことを表現するのに、それらは必要ないんだ。自分とパソコンと、友達しかいなかった。だからインターネットに転がっている、自分が伝えたいストーリーを象徴する映像でMVを作った。グリーンスクリーンでただサイケな素材を使うこともできるけど、そうではなくて自分の表現したいストーリーや世界の現状を表現する必要がある。もちろん僕の視点が皆の視点なわけではないけど。「Happy Face」での成功を経て、「I Like To Party」では少し予算が増えた。まだ少ないけど、ディレクターを雇うことができるようになったし、友達にも出演してもらった。そうやって、自分が持っているツールを最大限に使うことが重要なんだ。「表現」をする最低限のツールは、誰もが既に持っている。ーー私は昔のビデオカメラにハマっていて、最近もSonyのPC-100を買ったのですが、Jagwar Twinのビデオでも似たようなヴァイブスを感じました。そのような昔のカメラって使用していますか?JT:うわーそれはスケボーとかのヴァイブスのカメラだね!実際に「Happy Face」とか「Down To You」では、そういうカメラ使ってるよ!親が持っていた8mmのビデオカメラで撮ったカットを少し使用している。共通点がたくさんあるね(笑)ーーアップカミングなプロデューサーにアドバイスをするとしたら、どのようなことを伝えますか?JT:何度も言っていることになってしまうけど、自分の真実を知って、それを伝えよう。「他の人がどうしている」とかに拘りすぎないで、自分が伝えたいことを理解しよう。「そもそもなんで音楽を作りたいのか?」を理解するのが大切かもしれない。本当に難しい質問だけど、重要な質問だ。「単に好きだからやっている」のもいいけど、誰もが世界に対してユニークな視点を持っているなか、アーティストはその視点をシェアする機会があるんだ。そうやって人々の意識を広げる機会がある。「お金のためにやっている」という人もいるかもしれないけど、正直経済的に成功しているアーティストたちこそ「自分のなかの真実」を伝えていると思うし、だからこそ多くの人が共鳴している。ーーありがとうございます。日本で会える日を楽しみにしております!JT:是非日本に行ってライブをしたいよ!
Kaz Skellington (Steezy, inc)