• 14/12/2022
  • Homesmartjp
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ビッグデータからホテル客室単価を割り出すメトロエンジンが最優秀賞ーーIBM BlueHubインバウンド向けオープンイノベーションプログラム

日本アイ・ビー・エムは5月19日「IBM BlueHub」が企画・運営する企業とスタートアップの連携検討プログラム「Open innovation program Inbound Travel」の成果発表会(DemoDay)を開催した。

インバウンド旅行者向けに対応したサービスを複数企業で考案する企画で、一般企業としてはNTTドコモ、ゼンリン、ゼンリンデータコム、ソフトバンクの4社、スタートアップとしてはAndeco、クリエ・ジャパン、Fesbase、プレティア、マイベース、メトロエンジン、RichTable、レアリスタの8社が参加した。登壇したのは以下の8チーム。

2月下旬にこれらの混成企業チームがキックオフミーティングを実施し、3カ月の企画フェーズを通じて6回のワークショップを開催した。今日のDemoDay終了後に具体的な事業化に向けた取り組みを開始することになる。情報開示も兼ねてお伝えすると、筆者はこのイベントの審査員として参加させてもらった。

最終審査の結果、審査員から最も支持されたサービスはホテル向け客室単価設定ツールをNTTドコモ、ゼンリン、ソフトバンク、IBMらと共に考案したメトロエンジンが獲得した。また、各賞としてTHE BRIDGEとしてマイベースの酒造ツーリズム「SAKEVEL」にTHE BRIDGE賞を提供させていただいた。

以下にプレゼンテーションを実施した7つのサービスについてご紹介する。

中国向けインバウンド特化ChatBot(Fesbase、クリエ・ジャパン)

海外旅行を企画した際にTripAdvisorやYelpを駆使して調べたが、子供が入っていいのかそういう雰囲気がわからない。これと同様の状況がこれから期待されるインバウンド需要でも発生することが予想される。中国人旅行客の多くは日本食を目的にやってくる。その際にどうやって予約すればいいか?その課題をChatBotとAIで解決するのが「YOYAKU」。

カテゴリから予約したいレストランを選んで希望する場所や内容を入力。外国人旅行客でも使いやすいよう音声入力も対応しており、Watsonによりレコメンド情報が表示される。

Fesbase社では既に既存事業として人間によるコンシェルジュサービスを提供しているので、大量の教師データがあり、精度のあるレコメンド情報が提供可能となっている。応答はBotがするが質問内容によって無理な場合にはAIが自動的に振り分けて人間によるコンシェルジュを選択することも可能になっている。中国メディアと交渉中で来日前のユーザー獲得も検討中。

ビジネス的にはレストランへの送客手数料と、今後、利用ユーザーが増えてきた段階でレストラン検索サービスのような事業者に対してプラットフォームを提供することも考えている。

レストラン向けマーケティング / 商品開発支援ツール「Quippy for Restaurants」(Ritch Table)

インスタグラム上でのレストラン検索を提供するのがQuippy。サーチからディスカバリー(予想外の発見)の体験を提供する。ユーザーはアプリを立ち上げるとインスタグラムから引っ張ってきた写真とレストランの位置情報を紐づけた情報が表示される。この閲覧内容はサービスサイドで学習し、この情報を元に別のレストラン情報をレコメンドしてくれる。

飲食店向けのサービスでは、SNSやレビューサイトに英語で投稿されている関連情報をネガ・ポジで表示。特定の料理についてネガティブな評価がされている場合は他店でのインスタグラム素材を例示してくれる。検索サービスは無料で、レストランに導入するサービスは月額モデルを予定。

酒造ツーリズムとパーソナル日本酒ソムリエ「SAKEVEL」(マイベース)

成田空港で訪日外国人100人に聞いたところ日本酒を飲みたいという人は88。その一方で酒蔵などの情報はよく知らない。また酒蔵の99%以上が中小・家族経営で急に外国人がやってきても対応ができないし、そもそも訪日外国人の消費の60%が首都圏。こういった地域の小さな酒蔵に眠る観光資源を有効活用して、地域振興に役立てようというのがSAKEVELの考え方。

ビッグデータからホテル客室単価を割り出すメトロエンジンが最優秀賞ーーIBM BlueHubインバウンド向けオープンイノベーションプログラム

お酒についてはラベルを画像認識してその情報を多言語にて提供する。また、ソーシャル情報の過去投稿情報から観光客向けにパーソナライズされた日本酒を提案してくれたりもする。酒造メーカーでは集客などができないのでワイナリーツアーと同様の酒蔵ツアーをマイベース側で企画して提供する。サービスは10月から提供予定。

ARナビゲーションサービス「SnapGo」(プレティア)

SnapGoはGPSがなくてもスマホ画像から自分の位置を特定して設定した目的地まで連れて行ってくれるサービス。多言語表示の少なさから道に迷う訪日外国人が一定数存在しているということでこの課題を解決する。

施設の写真画像を事業者から提供を受けてそこからアルゴリズムを作り、機械学習によってユーザーが撮影した写真から場所特定を可能にする。結果的にGPSがついてない端末や、言語に問題のあるユーザーに対しても写真を撮影するだけで目的地に行くことができる。

アルゴリズムの開発には一箇所で40点ほどの360度画像が必要になるそうで、例えばひとつのビルなどだと検証していないということだった。また、目的地の入力については画像検索やテキストでの入力を想定しているという。

祭情報提供アプリ「Miccossy」(Andeco)

訪日外国人向けの祭り情報提供サービス。ユーザーはガイドブックなどを見てもリアルタイムな祭りの情報を取得しにくい。海外からYouTubeでMATSURIを検索するのは富士山と同等レベルでニーズはある。また国内には31万件のお祭りがあると予想(この情報はデータ化されていないものも含まれるそう)している。

Micossyアプリを使うと周辺エリアの祭り情報を表示してくれて多言語で情報や参加方法などを提供してくれる。ビジネスモデルは祭りに参加する時に購入する法被の販売。初期は100件の情報取得から始める。

訪日旅行者の悩み解決動画配信サービス「1Minute Japan」(レアリスタ)

訪日外国人旅行者の中でも個人旅行向けを想定したサービスが1Minute Japan。旅行前は現地のSIMやWifi情報が欲しいし、旅中では交通やチケット、レストラン予約などを課題に持つことになる。こういった課題の情報をWatsonを活用して感情分析して、どのような国の人がどういった課題を持っているかを分類。その解決方法を分散型の動画コンテンツにして提供する。

例えばこのような方法で抽出された課題は「アメリカの20代の旅行者は回転寿司の食べ方がわからない」などのようにまとめられるので、このガイドコンテンツを作成するという具合。4月からテストマーケティグを開始してfacebookページの獲得フォロワー数は5000件ほど。

ホテル向け客室単価設定ツール(メトロエンジン)

ホテルや旅館が収益を最適化できるツール。国内の3万5000施設、120万室がターゲット。客室単価の多くは個人のノウハウで設定されていた。一部チェーンなどはツールを使っているが、過去の実績や競合の客室単価を判断して設定したりしている。しかし民泊などで需給バランスが崩れてこの方法が効かなくなってくると予想する。

そこでメトロエンジンでは宿泊客の予約行動を予測。予算やレビュー、さらに民泊情報や客室の写真データなどを加味したデータ分析を実施し、客室単価を設定する。また今回はNTTドコモ、ゼンリン、ソフトバンクのモバイル行動データを元にした人間行動の可視化も実施し、これも付加している。

こうやって得られたビッグデータ解析を元に、客室の単価をどのようにすればよいかを具体亭に提示してくれる。先月25日に発表して50施設で検証中。ホテルや旅館の個別システムとの連結ができると、単価設定が適切だったかどうかの検証ができる。

Watsonが特徴的なオープンイノベーションプログラムと今後の課題

前回の車(オートモーティブ)と健康(ヘルスケア)に引き続き、2度目のオープンイノベーションの取り組みとなった。前回で最も評価の高かったPreventは名古屋大学医学部発のスタートアップとして、生活習慣病予防のソリューションを保険会社と協同して発表。

高血圧や糖尿、脳血管疾患など、普段の問診を継続することで再発率を3%未満に抑えることができるという自身の研究結果を元に開発したオンライン問診サービスを発展させ、チャットでの問診にはWatsonを組み込むことで効率化を目指すとしていた。

今回のインバウンドテーマで参加した各社も、それぞれ自前で持つサービスやテクノロジー、企業内リソースなどの強みを組み合わせることで新たな価値創造にチャレンジ。

評価の高かったメトロエンジンは、ホテルや今回の協業企業が持つビッグデータを効果的に解析することで客室単価を割り出すだけでなく、その先の詳細な予測と具体的な提案まで織り込んだイメージが明確で、既に50社の引き合いを得ているという点でも頭一つ抜けている印象だ。

ただ上記2社についてはプログラム内で分かりやすい成果を発表できた一方、その他のサービスについては(これは前回の企画も含めて)スタートアップそのものの持つ技術やサービスが小粒な場合や、リソースを持つ企業側の位置付け、協業メリットが不明確だったりとまだまだ荒削りの印象も強い。

また、IBMのプログラムではWatsonという次世代インフラ解析エンジンがあるので、ここになんとかアイデアを合わせようという「これは無理したな」感のある企画もいくつか拝見した。いわゆる手段と目的が逆になっているパターンだ。

リソースを持つ企業と、テクノロジーで一気にゲームチェンジを狙うスタートアップの協力は文字で書くと美しい。しかし、この「協業」が目的になってしまうとそれぞれの思惑や文化の違い、プログラムを主催する側のエゴがおかしく作用して、思うような結果が生まれないように思う。

解決すべき課題はどこにあるのか、それはテクノロジーが必要なのか、どういった企業が集えばスピードアップするのか。「オープンイノベーション流行り」な今だからこそ、こういった基本的な準備がより大切になるのではないだろうか。

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