• 05/02/2023
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NHK 水戸放送局ブログ

茨城県は、4月から始まる新年度の「当初予算案」を公表しました。難しそう…とこのページを閉じようとした方、ちょっと待ってください!「当初予算案」には、茨城県が目指す未来が示されているんです。その方向でいいの?何にいくら、使おうとしているの?県民の皆さんにも、チェックしてほしいのです。県政担当の記者が解説し、最後には「これでわかった!」と言わせます!

【そもそも「当初予算案」って?】

県の「当初予算案」とは、「4月からの1年間で、県が行う事業とそれにかかる費用をまとめたもの」です。毎年、新しい年度が始まる前に発表され、県議会で必要性を話し合い、可決されれば実際に事業が動き出すことになります。

イメージがわきやすいよう、家計簿に例えて説明しましょう。

「いばろく家」では、4月からの1年間でどんなことをしようか、計画を立てています。食費や光熱費など、必ず必要となるお金があります。そのほか、子どもの受験があるので塾の費用がかかる。パソコンも買いたい。車もそろそろ買い替えないと。夏休みには旅行にも行きたい。

「いばろく家」の皆さんが、1年間でやらなければいけないこと・やりたいことをまとめ、それにかかると見込んだ金額は、合計で400万円になりました。これが「当初予算案」にあたります。

ただ、計画どおりにはなかなか行きませんよね。「いばろく家」でも、病気にかかって医療費がかさんだり、冷蔵庫が壊れて買い直したりと、思いがけない出費があり、400万円では足りなくなりました。

行政にも、同じことがあります。その場合は必要となると見込んだ費用を「補正予算案」としてまとめ、再び議会に提出します。特に新型コロナの感染が拡大してからは、新たな対策を打ち出していくため、県はたびたび「補正予算案」を作っています。

【「一般会計」=メインの財布】

茨城県が発表した新年度の当初予算案は、一般会計で1兆2816億7900万円でした。「一般会計」とは、わかりやすく言えば、財布です。県は、使い道が違う3つの財布を持っています。3つのなかで最もたくさんお金が入っているのが「一般会計」という財布です。道路や公共施設を作ったり、福祉や教育の充実に使ったり、県の事業に使う費用はほとんどがこの財布から出しています。新年度の一般会計は、過去最大の規模だった令和3年度よりも135億円ほど少なくなりましたが、これまでで2番目の大きさとなっています。

ほかには、「特別会計」と「企業会計」という財布があります。「特別会計」は、国民健康保険の事業など、使い道が特別に決まっている財布です。「企業会計」は、水道事業や病院事業に使う財布です。

【目指すのは「幸福度No.1」!】

予算案の内容=県が4月からやりたいことを見ていきましょう。県のキーワードは「県民幸福度No.1の『新しい茨城』づくりに挑戦」です。その実現のために「『新しい豊かさ』へのチャレンジ」「『新しい安心安全』へのチャレンジ」「『新しい人財育成』へのチャレンジ」「『新しい夢・希望』へのチャレンジ」の4つのチャレンジごとに、事業を打ち出しました。

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「『新しい豊かさ』へのチャレンジ」の中心的な事業は「カーボンニュートラル産業拠点の創出」です。「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることで、政府は2050年までに達成することを目標にしています。茨城県は今後、カーボンニュートラルが新たな産業になる、つまり、もうかる市場になると見込んでいます。

カーボンニュートラル関連の事業の予算は合わせて69億2900万円です。企業などを対象に、水素などの新エネルギーを利用する場合の課題を調査するなどし、新たなモデルを創っていこうという事業に5000万円。脱炭素に関連する新規ビジネスに乗り出す中小企業に資金を融資する事業に18億300万円などを盛り込んでいます。

これとは別に令和3年度の補正予算案で、脱炭素に向けてタンクやパイプなどの施設整備を支援するため、200億円を拠出して「カーボンニュートラル産業拠点創出推進基金」という基金を設けることにしています。矢継ぎ早に大規模な事業を打ち出す姿勢から、県のなみなみならぬ力の入れようがわかると思います。

続いて「『新しい安心安全』へのチャレンジ」です。海外の日本語学校から県内の介護福祉士の養成校への留学ルートを構築し、介護人材を確保しようという事業に900万円をあて、今後、海外の学生向けに学校説明会や面接会を行うことにしています。

茨城県では去年、家族の介護や世話を行う「ケアラー」や「ヤングケアラー」と呼ばれる人たちを支援しようという条例が施行されました。これを踏まえ、中学校や高校で実態調査を行う事業などにも900万円が盛り込まれています。

3つ目の「『新しい人財育成』へのチャレンジ」には、教育改革が入っています。令和5年度に、つくば工科高校をサイエンス専科高校に、友部高校をIT専科高校にそれぞれ改編することにしています。そのために実習機器を整備したり、中学生のうちから科学技術やITに関する教育をしていくための事業に、6億5000万円を盛り込みました。

大学の進学率アップも目指します。茨城県の令和2年の大学進学率は49%ですが、1人1台ずつ持つタブレット端末を使い、オーダーメード学習支援を行うなどして、令和9年には53%まで引き上げたいとしています。予算額は8200万円です。

最後に、「『新しい夢・希望』へのチャレンジ」です。盛り込まれたのは、つくばエクスプレスの延伸を検討する事業です。県の運営方針を示した「総合計画」では、延伸先として▼筑波山方面▼水戸方面▼茨城空港方面▼土浦駅方面の4つが挙げられています。この4つの方面を絞り込むための調査・検討にかかる費用として、1800万円を計上しています。

台湾への県産品の売り込みにも力を入れます。台湾当局は、東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと続けてきた茨城など5県産の食品の輸入規制を近く緩和する方針を発表しました。これを受けて県は、これまでに例がないような台湾最大級のプロモーションを展開するとしています。予算額は5億円で、県産品を現地でテスト販売し、売れ筋のものを売り込む事業のほか、主要な駅や繁華街で茨城の魅力をPRする大規模な広告を出す事業を計画しています。

【どうなる?新型コロナ対策】

いまだ感染の拡大が続く、新型コロナウイルス。新年度の新型コロナ関連の事業には、令和3年度より130億円ほど多い、1750億9800万円が盛り込まれています。具体的には、▼新型コロナ患者用の病床を確保する費用や大規模接種会場の運営費、それにPCR検査の自己負担分の補助など感染拡大防止策と医療提供体制の整備に829億円。▼学校が休校になった場合に備え、放課後児童クラブの運営費や人材確保にかかる費用の補助など県民生活への支援に14億円。▼経営改善に取り組んだり新規事業に進出したりする中小企業や個人事業主に融資する事業など県内産業への支援に891億円。▼そして、感染拡大した場合に備えた予備費として17億円を盛り込みました。

【財布の中身は大丈夫?】

では、事業を行う費用はどうなっているのでしょうか。今度は茨城県の財布の中を見ていきます。

行政では、つかうお金を「歳出」、入ってくるお金、つまり収入のことを「歳入」という言い方をします。新年度の歳入は1兆2817億です。これが、県が1年間で見込んでいる収入になります。

収入のうち最も多いのが「県税」、県民や県内企業が納めている税金です。家計で例えると“給与所得”と言えます。新年度に見込まれる県税は3981億円で、令和3年度より10.4%増えています。令和3年度はコロナ禍で企業の業績が落ち込み、企業からの税収が少なくなると見込んでいましたが、実際は予想よりも状況がよかったため、新年度は税収が増えるとみています。

次に多いのが「地方交付税」で、1967億円です。地方交付税は国からもらうお金なので、“親からの仕送り”などと例えられています。

3番目が「国庫支出金」で2106億円。国庫支出金も“親からの仕送り”ですが、「地方交付税」と違って使い道が決められています。

一方、「県債」は借金です。債権を発行したり、銀行から借りたりしてまかなうもので、新年度は949億円となっています。令和3年度と比べると、42.1%減っています。

そして、県には、災害などによって予期せぬ経済状況の悪化があったとしても行政サービスの水準を落とさないために積み立てている「一般財源基金」という“貯金”があります。新年度は新型コロナ関連の事業を増額していることから、ここから46億円を取り崩してあてることにしていて、基金の残高は、およそ800億円になる見込みです。

今回、公表された当初予算案は、大井川県政の2期目がスタートして最初のものです。4月からの1年間だけでなく、その先にも続く事業がたくさん盛り込まれています。私たちが住む茨城県の将来を、大井川知事はどう描こうとしているのか。私もしっかりと取材してお伝えしていきます。県民の皆さんもぜひ注意深く見ていてほしいと思います。

取材:鈴木瞬記者