メルセデス・ベンツの「EQS」は非常に快適なEVだが、やや“演出過剰”な点が気になる
PHOTOGRAPH: MERCEDES-BENZ AG
いまの電気自動車(EV)の状況は、サムスンが2015年に洗濯機にWi-Fi機能を無理やり搭載したときの状況に似ている。2022年に注目の電気自動車18モデル洗濯機は自分の手で操作しなければならない家電製品なので、遠隔操作の機能など不要のはずだった。それなのにサムスンは、洗濯機にインターネット接続機能を追加するというだけのアイデアに陶酔し、不要であるはずのこの機能を加えたのだ。そして、この突っ込みどころ満載の動きを「スマートホーム」の真の幕開けとして大いに盛り上げたのである。実際のところ、まったくスマートなものではなかった。サムスンは、この洗濯機に乾燥機能すら付けなかった。しかもアプリは不安定で、運よく洗濯機と接続できて汚れた服の洗濯が終わったという通知がポーンと届いても、乾燥機能がついていないので何の役にも立たない。ただ濡れた洗濯物が停止した洗濯槽にたまっているという事実に、イラっとするだけだった。技術的に可能になったからといって、必ずしもそれをすべきということにはならない──。最近のEVの設計も、この教訓に耳を傾けるべきだろう。そして車内空間のデジタル機能に関して、これは特に当てはまる。そこで話題にしたいのが、メルセデス・ベンツがフラッグシップモデルとして打ち出している高級EV「EQS」だ。このクルマには大量の技術が押し込められており、正直に言って何から論じるべきかもわからない。ということで、過剰なデジタル機能は後回しにして、まずはスペックから紹介していこう。
リムジンを思わせる走り
メルセデス・ベンツの高級EV「EQS」。
アウディの「e-tron GT」やテスラの「モデルS」、ポルシェの「Taycan(タイカン)」のようなモデルの競合として売り出されているEQSは、メルセデス・ベンツが自社の構想する未来のEVのあり方を示したモデルとなっている。メルセデス・ベンツは2025年までにすべてのセグメントでEVの提供を開始し、20年代末までにはすべてのモデルをEV化すると発表しているのだ。 スポーツカーというよりも企業の経営層が乗るリムジンのように設計されたこのクルマは、量産モデルとしては過去最大容量のバッテリー(107.8kWh)を搭載している。このため、WLTP基準での航続距離は484マイル(約770km)と、テスラを上回る数字をたたき出している。この航続距離が実現したのは、全輪駆動ではなく後輪駆動であること、そして空気抵抗を示すCd値が0.20に抑えられていることなどが要因という(このためメルセデス・ベンツは、EQSが世界で最も空気力学的に優れたクルマであると主張している)。全長5.2mで重量2.5トンの巨大なクルマではあるが、後輪のみの2輪駆動にもかかわらず出力が245kW(333hp)で、時速0-62マイル(約100km)の加速が6.2秒、最高時速は130マイル(同約209km)となっている。ラグジュアリーなドライヴ体験を最も感じられるのは、低速走行のときだ。なぜなら、EQSは低速ではほぼ無音で驚くほど静かであり、時速80マイル(同約129km)を超えるあたりから風を切る音がかすかに聞こえ始めるだけだからだ。そして高級モデルに見合う快適なドライヴ体験が実現されており、多くの洗練された部分を感じながら落ち着いた走行を楽しめる。路面の凹凸は滑らかに吸収され、衝撃が伝わらない。道路の継ぎ目を目視で確認できたとしても、車体はほとんど揺れることもない。また、カメラやコンピューターを使って回生のタイミングを判断するインテリジェント回生システムなど複数の回生ブレーキが用意されているので、ブレーキペダルを踏む必要はほとんどない。ブレーキの感覚は決して最高のものとは言えないので、その意味でもありがたい機能だ。EQSには巨大なバッテリーが搭載されており、その重量は相当なものになっている。だが興味深いことに、その走りは敏捷でハンドル操作も軽快だ。重心が低いので、車体のロールもほとんど発生しない。その上で全体的な印象をまとめると、心臓が高鳴るドライヴというよりは、道路上を漂っていくような感じだ。公正を期して言えば、それがこのEVが目指していた感覚なのだろう。
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最終更新:WIRED.jp