• 20/10/2022
  • Homesmartjp
  • 1217 ビュー

オムロンのIPCが実現する、未来の工場

製造業を取り巻く環境は大きく変化している。1つの製品を大量に生産し安く販売すれば売上が上がるという時代は終わり、顧客が要望する高価値な製品をタイムリーに生産するということが求められるようになった。

また、製品自体も高度化しており、いくつもの生産工程や複数の生産設備を使用した完成品が作られるようになってきている。

1つの生産設備を高速に動かし、1つの製品を大量に生産する場合、PLCによる制御が最適であるが、複数の設備の連携をデータ活用を通じて行い、顧客の要望に応えるための生産を行うためには、PLCによる制御では不十分だ。

そこで開発されたのが、IPC(Industrial PC:産業用PC)だ。

本稿では、オムロン株式会社が開発しているIPCについて、夏井敏樹氏(営業本部マーケティング部)と妹尾吉紳氏(商品事業本部コントローラ事業部)にお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)

目次

PLCで製造現場を制御していたオムロンがIPCを開発した背景

オムロンがIPCの製品化に取り組み始めたのは、今から4年半程前だ。IoTというキーワードや、製造現場のデータを活用していかなければならないという話題が出始めた頃である。

元々オムロンは、PLCによって製造現場の制御を行っていた。PLCでもデータを駆使して設備を動かすことができるが、PLCで実現できる範囲は非常に狭く、リソースが少ないことからデータを貯める量も少なかった。

これでは、従来の生産ラインの構造から進むことはできないため、データの可視化や分析をPLCにフィードバックするデバイスが必要だということでIPCを開発したという。

しかし、開発当時の日本市場では、PCを製造現場で動かすということが受け入れられなかったそうだ。PCの耐環境性が低いことと、ソフトウェアやプロセッサなどのサポート期間が短いことが大きな要因だった。

そこでオムロンでは、IPCで工場を動かすという考えが先行しているヨーロッパで、開発から生産を行い、グローバルに展開を行うことを決め、開発と商品化に取り組んだという。

この商品化の進め方は、オムロンの中でも珍しい。他のオムロン製品は、日本で開発して日本あるいは中国で生産を行うという商品化の進め方をするのが一般的だ。開発や生産、品質管理をヨーロッパで行うことは、オムロン製品でも初の試みである。

オムロンのIPCの特徴

しかし、日本国内でPCというカテゴリは、元々デスクトップ用PCを提供しているメーカーの認知度が強く、制御を行うオムロンがIPCを作っているという認知度が非常に低かったそうだ。

その中で、オムロンは、「製造現場の制御が得意なオムロンがIPCを作る」というメリットを説明しながら認知度を上げてきている。

オムロンのIPCの特徴は大きく3つある。

PLCの良さを生かした設計

まず、長年PLCを作ってきたという経験から、IPCも現場で使用できるものに仕上げられているという点だ。

IPCが現場から避けられ、PLCが現場から重宝されてきた理由の1つに耐環境性がある。

PLCは、データを扱う能力はあまり高くないが、耐環境性が高く、同じ動作を高速で正確に繰り返し行うという動作に適している。一方で、IPCは自由度が高いものの、耐環境性が低いというイメージがあった。

オムロンは、PLCの耐環境性の高さをIPCに活かすことで、IPCでも耐環境性が高い製品を作ることを可能にしている。

また、IPCの開発をすすめる中で、IPCのベースとなるOSやプロセッサのベンダーの意識が変化し、長い期間サポートを行うというものも出始めたという。

そのため、長期安定供給が可能で、高いロバスト性を持っていて、信頼性が高いIPCを提供することが可能になっている。

ソフトウェアを変えることで提供する4種類のバリエーション

オムロンでは、様々な現場の要求にIPCで応えるため、

という4種類のIPCのバリエーションを持っている。

ハードウェア自体は2種類だが、ソフトウェアを変えることで、4種類のIPCを提供できるようになっている。用途に応じてIPCを使い分けることができるのが大きな特徴だ。

オムロンのIPCが実現する、未来の工場

PLCの場合、顧客の要望に対し、ハードウェアで対応してきた。しかし、この対応方法では、顧客が新しい要望を出す度に新たなハードウェアを開発することになる。ハードウェアの種類が増えると、開発とメンテナンスにコストが掛かってしまう。

ソフトウェアドリブンの考え方でIPCを開発することで、新たにハードウェアを開発せずに顧客の要望に対応することが可能であり、顧客の要望に応じて、更にIPCの種類を増やすことも可能である。

EtherCATでつなげるノウハウ

オムロンのIPCはフィールドバスをEtherCATというプロトコルでつないでいる。EtherCATは、ベッコフオートメーションが開発したリアルタイム性のある産業イーサネット技術だ。

EtherCATは自由度が高いプロトコルなため、何でもつながるように見えるが、実際は自由度が高い分難しい。他のIPCメーカーがEtherCATをサポートして、他社デバイスとEtherCATでつなごうとしてもノウハウが必要だ。

オムロンでは、EtherCATで接続できるデバイスをいくつも作っている。それらのデバイスはもちろんIPCと接続することが可能であるし、EtherCATに対応したデバイスを開発していく中で、EtherCATで接続するためのノウハウを蓄積してきた。

そのため、オムロンのIPCとオムロンのセンサー類を接続する際はもちろん、他社センサーと接続する際にも、どのようにしたら接続するのかということをサポートできる。

製造現場のデバイス全てがオムロン製であることは少ないだろう。他社製品で元々制御している製造現場でも、EtherCATを導入するノウハウがあることで、オムロンのIPCを導入し、スムーズな接続をすることが可能になる。

オムロンのIPCが使われている領域

オムロンのIPCは、柔軟な対応が必要な現場で主に使われている。

半導体の前工程

半導体の生産工程は、前工程と呼ばれるシリコンウエハの処理工程と、後工程と呼ばれるウエハから半導体を切り出す工程に分かれている。前工程は、PLCが得意な簡単な動作を繰り返し正しく制御ではなく、ガス圧力だったり、温度や流量だったりを確認しながら処理を行うプロセス制御をする必要がある。

こうした制御の場合、データ処理を行う能力とデータを可視化する能力の両方が求められるので、IPCがよく用いられる。

包装機

包装機の中にIPCが組み込まれている。

主な用途は見える化だ。不慣れなオペレーターでも視覚的に確認しながら操作ができるように、製品を3Dグラフィックで表示しながら操作できる部分にIPCの制御が用いられている。

工作機械

工作機械の中にもIPCが組み込まれている。加工部分の制御は工作機械メーカーが司っているが、ドリルなどのツールを変更する部分などは、IPCによる柔軟な制御や操作性が用いられている。

また、3Dモデルを使ったシミュレーションから、加工を行うプログラムを作成する部分のインターフェイスもIPCが行っているケースが多い。

今後、オムロンがIPCの展開を目指す領域

オムロンでは、今後更にIPCを展開する業界を増やしていくことを考えているという。

自動車業界

自動車業界の制御の多くは、これまでPLCによって制御されてきた。

しかし、ここ数年でデータをハンドリングするという考え方が具体的になり、オムロンへの問い合わせが増えてきているという。

塗装や溶接といったそれぞれのラインの機械を動かす部分はPLCが制御するが、各ラインのデータを集めてきて、全体のラインを調整したり歩留まりを管理したりということを、IPCを導入し、統一したソフトウェアで行うという動きが出てきている。

インフラ

水処理やパーキングの管理、ビルの管理等といったインフラでは、冗長性のシステムが求められる。冗長性とは、耐障害性を高めるために、予備装置を平常時からバックアップとして配置し運用しておき、安全性を確保した状態のことである。

オムロンでは、IPCをサードパーティのソリューションと組み合わせることで、冗長性を確保したシステムを提供しようとしている。

これまでのPLCの制御では、各社独自の制御方法だったため、サードパーティはソリューションを組み合わせるということができなかった。IPCを活用することで、サードパーティのソリューションとの組み合わせが容易になる。

また、通常のPCは耐環境性が低いため、インフラの管理を行うような環境では止まってしまう危険性が高いため、ソリューションとの組み合わせができても、採用が難しい。

耐環境性が高く、ソフトウェアドリブンで開発されているIPCがインフラ管理に適したデバイスであると考えているという。

マシンオートメーションコントローラとIPCの違い

オムロンでは、PLCの良さを活かしつつPCの良さを取り入れたマシンオートメーションコントローラを開発・提供している。IPCとマシンオートメーションコントローラの違いはどこにあるのだろうか。

生産設備の管理から工場全体の管理をしていこうという大きな流れに差はないという。マシンオートメーションコントローラがPLCをもとに生み出された製品であるのに対し、IPCはPCから生み出された製品であることから、それぞれ主に得意な制御が違うというイメージだそうだ。

現時点では、大きさのスケーラビリティだったり、コストの問題もあり、それぞれが商品ラインナップを持っている状態だが、近未来には1つになるだろうと夏井氏は述べる。

現在オムロンが提供しているマシンオートメーションコントローラNXシリーズは、ソフトウェアで動作している。ソフトウェアで動作するということは、IPCの上でも動作できるということだ。

1台のIPCの中で、PLCの機能やCNCの機能、見える化の機能がそれぞれ動いたり、それぞれの機能を管理したりということが可能になっていくだろう。

その時に、オムロンがセンサーやアクチュエータなど現場に設置するデバイスを開発しているという強みが出てくる。

IPCの中で仮想化を作り、様々な機能をソフトウェアで動かすという考えは、様々な企業が検討しているが、実際に実現しようとするとIPCだけで完結できるわけではなく、センサーやアクチュエータなどが繋がって、現場からクラウドまでを横断した制御のプラットフォームを構築する必要がある。

仮想化制御プラットフォームで作る、未来の工場

日本ではまだ、IPCというと、データを確認できるようにするというPCの機能が多いというが、オムロンがIPCで取り組んでいるのは機械を制御するという領域だ。

オムロンは、現場のデバイスやソリューションを持っていることが強みであり、IPCのプラットフォームの特徴を活かし、新たな仮想化の制御プラットフォームを構築したいと考えているという。

仮想化制御プラットフォームがあることで、ソフトウェア化された機能がプラットフォーム上を流れ、機能を自由にハンドリングできるようになる。そのため、いつでもどこからでも制御を組み立てることができるようになる。

センサーを始めとした現場のデバイスと、それらをつなぐフィールドネットワークのスキルを持つオムロンは、仮想化制御プラットフォームを構築し、現場からクラウドまでをシームレスに接続することができる制御機器ベンダーであるといえるだろう。

関連リンク

小畑俊介

大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。