ニチガスはいかに「ごみ屋敷」を捨てたか? メタバースを活用したソリューション事業を支えるDX【前編、更新あり】:「DXリーダーに聞く」 エネルギー×DX(1/3 ページ)
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日本の産業を土台から支えるエネルギー業界において、デジタルトランスフォーメーション(DX)はどのように進むのか。DX推進における課題は何か。そして、DX進展後のエネルギー業界はどのような様相になるのだろうか。
「エネルギー×DX」の第2回目となる今回は、日本瓦斯(以下、ニチガス)専務執行役員・コーポレート本部長の柏谷邦彦氏に話を聞く。本稿は前後編の前編として、ニチガスが早い時期からDXに取り掛かった背景とDXの成果について聞いた。
参考記事:東京電力の挑戦 レガシーシステムを抱えつついかにDXを進めるか【前編】
東京電力の挑戦 レガシーシステムを抱えつついかにDXを進めるか【後編】
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ニチガスは1955年にプロパンガス事業者として創業し、1966年から都市ガス事業に進出した。2015年に東京電力と業務提携し、2016年の電力小売完全自由化を機に代理店として電力とガスのセット販売を開始した。2018年に電力プラン「でガ割」で家庭向け電力小売市場へ参入し、電力・都市ガス、LPガスを提供する総合エネルギー事業会社となった。
現在は小売り事業の他、LPガスハブ充填基地「夢の絆・川崎」(以下、夢の絆)を運営し、クラウド基盤である「雲の宇宙船」をはじめとしたシステムを他の事業者に開放する。東京電力エナジーパートナーと共同で都市ガスプラットフォームを提供する「東京エナジーアライアンス」を運営するなど、プラットフォーム企業としての顔も持つ。
カーボンニュートラル社会を見据え、これまでのエネルギー供給に加えてEVや太陽光発電、充電設備や、エネルギーマネジメントシステムを「エネルギーソリューション・パッケージ」として提供し、スマートハウス、スマートシティーの実現を目指す。
小売り事業からソリューション事業への転換
ニチガスにおけるDXの取り組みを他のエネルギー企業と比べたときに際立つのがスピードの速さだ。例えば先述した基幹システムのクラウド基盤「雲の宇宙船」は、2010年から構築を始めて2013年には全業務が完全にクラウド化している(図1)。
図1 ニチガスのクラウド化関連年表(出典:『ニチガス版 DXへの挑戦』)
DXという概念が日本に浸透する前から同社が変革を進められた背景には、社長の和田眞治氏のリーダーシップがある。営業現場最前線からキャリアを積んだ同氏について、柏谷氏は「社長の口癖は『同じ成功を繰り返さない』。新しいことに挑戦した結果、失敗しても責められることはないが、以前成功した企画の焼き直しは必ず怒られる」と語る(以下、特に断りのない発言は柏谷氏によるもの)。
同社のDX推進戦略をまとめた冊子『ニチガス版 DXへの挑戦』にも、過去との決別を促す言葉が並ぶ。特に印象に残るメッセージが、「システム再構築は、避けて通れないという覚悟」「レガシーシステムは足し算のみで築かれた『ごみ屋敷』。建て替え前提で、リフォームでは混沌しか生まれない」だ。
和田社長は同書の中で「システム改革の前提は、現場の各部門業務がどんな形でデータ連携しているかを俯瞰(ふかん)して理解できている事が前提。その上で、周辺リスクと本質的なリスクの識別をリーダーができなければ、小さな不合理を受け入れて大きな合理性にたどり着く事はできない」と強調する。
「業界からにらまれてもまったく気にしない」企業風土
ニチガス専務・コーポレート本部長の柏谷邦彦氏基幹システム「雲の宇宙船」の構築も、前述した考えに基づく取り組みだ。2013年にクラウド化を完了した。創業70年近いニチガスで、先人が築き上げたシステムを捨てようとの呼びかけは、亀裂を生んだのではないかと問うと、柏谷氏から返ってきたのは、「当社には過去作ってきたものを打ち壊して、新しいものに進化させようという風土がある。肥大化したシステムを切って、前に進むことに大した反発はなかった」という答えだった。
「刷新は日常茶飯事。朝に決まった方針が、その日の夜に変わることもめずらしくない」と柏谷氏が話すニチガスの社風はどこから生まれたのか。
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