• 26/10/2022
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これからの都市計画にビッグデータが求められる理由

大都市の一極集中、世界でもいち早く突入した高齢化、頻発する自然災害など、多くの社会課題が複雑に絡み合う日本。

それらの課題を解決する街づくりには、従来の都市計画に加えて新たな対応が求められている。その課題解決の一つとして必要なのはビッグデータの活用ではないだろうか。

例えば、コロナ禍で注目が集まるようになった人流データ。人がいつ、どんな交通手段で、どこからどこに移動し、そこに何人いるのか、を把握するためのビッグデータである。この人流データを活用することで、交通・観光・防災といった分野の施策を効果的に策定できるようになるという。

本稿では、都市計画をはじめとした社会インフラサービスをプロデュースする建設コンサルタント企業 パシフィックコンサルタンツ株式会社の杉本伸之氏と、ソフトバンク株式会社で都市・インフラのDX事業に携わる龍野祐太郎氏に、人流データが都市計画にどのように役立つのか話を伺った。

目次

インフラ大量構築からインフラを賢く使う時代へ

都市計画の考え方は時代の流れにともない変化していると杉本氏は語る。

「これまでの日本では、経済成長による人口増加、都市の拡大、自動車の普及などにあわせてインフラの整備が行われてきました。大規模なインフラ整備がある程度整い、人口も減少し始めた現代では、今あるインフラを効率的に維持したり、また効果的に活用したりして都市サービスの質の向上を目指すという流れになってきています。

例えば鉄道やバスなどで活用されている交通ICカードが普及したことによって利用状況などのデータを蓄積することが従来に比べて容易になり、駅の機能やサービスの改善に役立てることができるようになります。」(杉本氏)

一方で龍野氏は、街のインフラを賢く使ったり、より良くしたりするために街をモニタリングすることが重要だと言う。

「例えば、人の動態を統計的に可視化することができれば、それに必要なサービスや機能の検討が可能になります。コロナ禍によって働く場所の考え方や街のあり方が変わってきていますが、いま街に求められているのは生活に必要なサービスが身近で完結するような機能ではないでしょうか。

そういったサービスを街の実態にあわせて検討するにあたり、人流データによる状況可視化は有効な手段だと思います。」(龍野氏)

従来の統計データも必用

これからの都市計画には人流データのようなビッグデータの活用が不可欠だが、これまで利用されてきた国勢調査やパーソントリップ調査※などの統計データも、引き続き必要だという。

※パーソントリップ調査:平日1日の移動を調査員が訪問しヒアリングする調査。おおむね10年に1度実施され、どんな属性の人が、どんな目的で、どこからどこへ、どんな交通手段で移動したかを把握することができる。

「パーソントリップ調査は調査対象人口の3%抽出のため33人に1人を捉えた小さいサンプル率となっています。そのため細かな動きは把握できず大まかな動きを把握するために活用されていました。

国勢調査もそうですが、これら統計データは、更新頻度が5年〜10年であるため最新の情報を反映できていない場合もあったかと思います。しかし、国勢調査では『職業』を、パーソントリップ調査では買い物なのか仕事なのかといった『移動目的』をヒアリングしています。

職業や移動目的は、都市計画に必要なデータですが、ビッグデータでは把握が難しい領域です。また、長期スパンの推移を見るという点でも、過去からのデータが存在するこれら統計データでないと増減を見出すことができません」(杉本氏)

これからの都市計画にビッグデータが求められる理由

人流データが都市計画に有効な理由

では、人流データを活用するメリットはなんだろうか。

それを探る前に、内閣府が推奨しているEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。 証拠に基づく政策立案)について触れておきたい。

内閣府は、EBPMを「政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること」と説明している。EBPMの概念に基づき都市計画をするために必要な”合理的根拠”を導き出すための一つとして、人流データや統計データを分析することが有効な手段になりうる。

「エビデンスに基づいて実態にあわせた都市計画を推進するには、従来からの統計データに加えて、スマートフォンの位置情報などを活用した人流データが有効です。

その理由の一つ目は鮮度です。例えば、コロナ禍の人流データ。前日のデータが翌日には分かるので、その情報をもとにすぐに対策を考えることができます。それがコロナ以前のデータしかなかった場合、当然ですがそのデータから対策を考えることは困難です。

二つ目は網羅性です。人々の生活が多様化する今日では、住んでいる場所・年代・性別といった属性ごとに課題や経済が存在します。それらのニーズを全体的に捉えていくためには多くの人々の動態を把握するために膨大なサンプル数が必要です。

また、晴れや雨といった天気も考慮し毎日モニタリングするためには24時間365日の連続したデータも必要ですが、人流データを活用することでこれらを網羅的に把握することが可能です。」(杉本氏)

これからは従来の統計データを活用しつつ人流データなどのビッグデータをプラスαして都市計画をすることが大切だと言える。

人流データを活用した施策例

鮮度と信頼性が高く連続性のある人流データがあると、具体的にどんな施策に生かせるのだろうか。杉本氏は次のように語る。

「例えば交通インフラ整備に活用できます。ある地域の人の動きを人流データで分析して、その地域の特定の施設間で一定の人の往来があるのであれば、その需要を取り込むように周遊バスを走らせたり、近距離で分散した細かな移動ニーズが高いエリアでは、シェアサイクルといった生活者が移動したい時に自由に移動できる交通手段を設置したりする、といった検討につなげることができます。

次は観光。観光客の動きを人流データによって捉えることで、地域内にある観光資源からの動線を把握することができます。それにより、A地点の名所を訪れた後にB地点の名物を食べ、C地点の美術館に立ち寄ってもらう、といった観光周遊の施策の検討などに生かせるようになります。その結果、地域全体の観光促進に寄与すると考えています。

そして防災。災害が起こった時に、エリアごとの住民の行動を統計的に分析することができます。避難所への移動をエリアごとに時系列で把握することによって、効率的に避難ができていたエリアの取り組みを横展開したり、エリアごとの差分が大きい場合にはその要因を特定したりすることが可能となり、地域の防災計画を見直す際の参考データとして活用することができます。」(杉本氏)

民間企業が提供する人流データを活用し官民連携で進める都市計画

インターネットおよびスマートフォンの普及によって、得られる情報の種類や量が格段に増えたのは周知の事実だろう。スマートフォンの位置情報をもとにした人流データもその一つである。

既に国土交通省でもデータ駆動型社会の推進を行なっているが、必要なデータは民間企業が有している場合も多い。ソフトバンクがパシフィックコンサルタンツとの共創で開発を行なった人流統計サービス「全国うごき統計」もその一つだ。

同サービスはパシフィックコンサルタンツが保有する都市計画や交通計画などの社会インフラに関する知見やノウハウと、利用許諾を得て匿名加工されたソフトバンクの携帯位置情報をもとにした統計データを提供しており、日本全国24時365日の人の動態把握が可能なサービスだ。

 「『全国うごき統計』のデータは、ソフトバンクの携帯電話基地局のデータをもとにした、数千万台の端末の位置情報データを活用しています。そのデータをさまざまな統計データと掛け合わせて、約1億2000万人の全人口に拡大推計しています。エリアの網羅性やデータの鮮度、人の属性が細かに把握できると言う点において都市計画にも有効なデータだと思います。」(杉本氏)

 「これからの都市計画は、行政が持つ統計データと民間企業が持つビッグデータを組み合わせて施策や計画をすることが求められると考えています。『全国うごき統計』による人流データは時間や場所を指定してデータを取得できるので、まずは知りたい地域の現状を客観的に把握し、そこから見える課題をもとに地域の改良へ繋げていくということも可能だと思います。

 一方で、単にデータがあれば良いと言うことではなく、効果的にデータを活用する必要があります。そのためには、データ分析の知見や経験値を持っている企業などと一緒に取り組みを進めていくことが重要だと感じます。」(龍野氏)

都市計画には、交通や防災、観光、商業、教育、インフラなど、さまざまな分野がある。

そして各分野に適切なビッグデータも揃いつつある。例えば観光や商業では、キャッシュレス決済企業が有する決済データ、教育では教育関連企業が有する教育ビッグデータ。そんな中でも、全ての分野に関連し安心・安全に生きていくための都市計画に必要な人流データが、当たり前に活用されるようになることを一人の生活者として切に願う。

Super City/Smart City OSAKA 2021~未来都市のスマート化EXPO&カンファレンス/7月8日(木)オンライン講演に登壇。大盛況にて講演を終了。

本記事で取材を行ったソフトバンクの龍野氏、パシフィックコンサルタンツの杉本氏が、「データ活用によるスマートシティ・都市最適化マネジメントの実現」と題して、オンライン講演に登壇。講演で紹介された「全国うごき統計」について掲載されております。

「全国うごき統計」の詳しい内容はこちらから

IoTNEWS編集部

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